夢の廃車置場まで何回左折右折?

テリー・ビッスン『ふたりジャネット』 読了。


 奇想コレクション河出書房新社)の1冊だけど、当初はあんまり読むつもりが無かった。
 紹介文の「奇想とユーモアとペーソスに満ちた・・・現代の〈ほら話〉」という文句からは、なんとなく落ち着かない作風に思えて、気が進まなかったというのもある。でも『SFが読みたい!』で人気が高いのを見るとやっぱり気になって、図書館で借りて読んでみたら、思ったよりずっと楽しくて気に入った。


 「奇妙な味の・・・」とか聞くと、ついサキやロアルド・ダールを連想して(←古い?)、残酷で底意地の悪い話を思い浮かべてしまうのだが、この本に収められたビッスンの作品にはそういう悪意が全く感じられないと言っていい。
 訳者解説では、南部の文化的伝統であるトール・テール(誇張の入った、大げさなほら話)を受け継ぐものと指摘してあるが、そうだとしてもイヤなわざとらしさは無く、むしろ可憐でいじらしい感じ。読んでいて受ける印象は、左翼系の政治運動に関わっていたという作者の経歴とはなかなか結びつかない。
 

 「未来からきたふたり組」のつるつるした手触りや、「英国航行中」「冥界飛行士」のひっそりした静まり具合もたいへん好もしいけれど、なにより《万能中国人ウィルスン・ウー》シリーズの夢みたいなバカバカしさと楽しさは、読み終えるのが惜しいような気持ちだった。
 蒸気動力?の手作りFAX機や、時空のねじれを生み出す1957年式のテレビ(ブラウン管の前に扉のついたやつ)などレトロ風ガジェットがうきうきさせる。アラバマの田舎町、対照的なニューヨーク、いずれの描写もどこかノスタルジック*1。ちょうど映画『バタフライ・エフェクト』のタイトルの意味を映画評で読んだところだったので、この理論が登場したのにも驚いた。
 また語り手の恋をめぐる小説にもなっていて、「秋は四十代にとって恋の季節」「四十一は年寄りじゃない」など勇気づけられる(!)フレーズも頻出。さいごはハネムーンが実現するところで終わるのだが*2、さてこのシリーズ(ここには3作収録)、続きはあるのだろうか。
 リフトハットヴァニア人というのも気になる。もっと読みたい。

*1:「宇宙のはずれ」に出てくる、“バングラデシュ人の運転するニューヨークのタクシーに必ず置いてあるビーズの座布団”と言うネタを何かの映画で見た気がしてならないのだが、気のせいかしらん・・・?

*2:ちなみに私の脳内映画館では、語り手&彼女はキャプテン・スーパーマーケットの人ジュリア・ロバーツという配役でした。