家庭内恐怖


     第12話「暴力からの脱出」"Underground Railroad"


 毎週見ているTVシリーズなのだけど、じつはやや不自然さを感じつつ見ていた。捜査の進行具合とか捜査官どうしの会話のやりとりなんかに、“あんなに簡単に短時間でいろいろな情報が集まるか?”と思ったり*1
 しかし、今週のエピソードは、そういう細かいことを忘れそうなぐらいの迫力もの。


 出産を目前に体調を崩して入院した女性が、病室からとつぜん姿を消すところから始まる物語。彼女はじつは夫による暴力=DVの被害者で、ひそかに張りめぐらされた救援ネットワークを伝うようにして自ら姿を隠したのだ。
 外づらの良さで暴力性を隠していた夫をはじめとして、女性の両親、救援の仲立ちをする人々…と登場人物のほとんどが皆なんらかのウソ・隠し事をしていたことがパタパタと判明する展開にどきどきした。
 なかでも仲介者たちが、時には法を犯すことも辞さず、何としてもDV被害者の避難先について口を割ろうとしない、その凄まじいほどの抵抗と執念が、DVからの脱出がいかに困難なのかを思わせ、さらに恐怖がいや増すのだ。


 けっきょく最後にたどり着く隠れ家はスタテン島の女性警官宅なのだが、彼女がまさに身体をはって被害者を守り抜くさまに感動しそうになった。仲介者のひとりである男性医師は、自分の娘を夫の暴力で死なせており、それが彼の行動の理由づけとなっている。しかし女性警官については、彼女がなぜそのような役目を担うことにしたのか、ドラマの中では語られない。そこに言いようのない重さがある。


 また、もう1つ怖ろしさを増幅させていたのが、主人公の父親の存在。被害女性の両親が、夫が抑圧的なタイプの夫婦であることは最初から匂わされているのだが、ラスト近くになって彼自身もまたDV加害者であったことが捜査官から指摘される。〈DV被害が次世代へ繰り返される〉ことは良く言われるが、ここでも父親は娘の逃亡先を娘の夫に知らせるという行動に出る。単に事の重大さを理解できないからなのか、それとも(「娘の夫」を正当化することで、同類である)自らを正当化するためなのかはよく解らないが、DV被害の根深さを思わせゾッとする展開だった。


 家庭の中は、外からの視線がなかなか届かない、深海のような闇。誰も助けてくれないという絶望の中で過ごしている人が、おそらく今この瞬間にも実在すると思うと、たんなるTVドラマと言っていられない怖さを感じた。

*1:一緒に見ている母は、『CSI:科学捜査班 』のほうが不自然!と言っている。“そんなに毎週毎週、鑑識ネタが解決を左右するような事件ばかり起きるか?”・・ということらしい。でも私は『CSI』のほうがキャラクターが自然な感じで好き。ちなみにいずれもJerry Bruckheimerがexecutive producerで同一臭が漂う。