英国スポーツマン精神を満喫

P.G.ウッドハウスウッドハウス・コレクション 比類なきジーヴス』(森村たまき訳/国書刊行会) 読了。


 コニー・ウィリスドゥームズデイ・ブック』に登場するダンワージー教授&助手のフィンチ君の原型は、ドロシー・L・セイヤーズ作品に出てくるピーター・ウィムジー卿&執事のバンターだ・・・ということで昨年『ナイン・テイラーズ』を読んだのだけど、更にその源流のような「執事もの」が、このジーヴスの出てくる一連のお話らしい。


 裕福で脳天気な若者バーティ(バートラム)と、彼が次々に陥るトラブルを、驚くべき才知と機転で解決していく本当に頼りになる従者(執事)ジーヴスの物語。いちおう一冊全体で18章の長い物語ではあるが、だいたい2章ごとに[事件が起きる→解決]が繰り返されていく感じで読みやすい*1。のんきな読み物で気分転換したいときにはピッタリです。


 バーティはオクスフォードを卒業してから何をしているのやらとにかくブラブラ暮らしている青年で、なにも心配することのないまことに羨ましいご身分(なにしろ、フラット住まいの独身男なのにちゃんと従者がいる生活)。のはずなのに、恐い伯母さんに縁談を押しつけられたり、おマヌケな友人が持ち込む厄介ごとに巻き込まれたり、しょっちゅうピンチが襲いかかってくる。本人も、ジーヴスの知恵なくしては自分の暮らしが回っていかないことは充分自覚していて、彼には頭が上がらない。バーティの服装の趣味にジーヴスは断固たる"No"の宣告を下し、バーティはいつもジーヴスに窮地から救い出してもらう代わりに、彼に気に入ってもらえない服飾品を放棄するはめになる。最後にはとんでもない荒技で“名解決“に持ち込んでしまうジーヴスだが、これじゃバーティの名誉はいったい・・・でもまぁいいや、ホンワカ〜〜ていう感じのエンディング。まさに読んでいるこっちのアゴがだらりと落ちそう。バーティと友人たちの繰り広げるバカな騒動は、『ブライヅヘッド』に出てくる大学生たちのお笑い系エピソードを拡大したような感じ*2
 訳者があとがきで、バーティ役はヒュー・グラントで映像化してほしいと書いているのを先に読んでしまったのでちょっとイメージが固定してしまったけど、それでもまぁ特に不都合ナシ。


 ところで話は変わるが、かねてより私(競馬のことはほとんど何も知らない)は、新聞(一般紙)がスポーツ面に競馬のオッズ表を載せることに不審の念を抱いていた。馬のコンディションとか、これまでの成績、騎手との相性など、レース内容=走ることに多少なりとも関わるデータならともかく、オッズなんて「賭け事」以外の何物でもないのに、それのどこが「スポーツ」なの!? と思っていたわけ。でも今回この本でよく分かった。少なくともこの本に出てくる人たちにとっては、スポーツとは賭け事のことだったのね。私が無知でした。
 よく「英国ではブックメイカーという商売があってあらゆることをネタに賭をひらく」「皇太子の(or芸能人の)子供の性別まで賭の対象になる」とか言われるのを聞くが、この小説の中でも、知り合いの恋の行方から牧師さんの説教の所要時間まで、何かというと賭が始まる。ひとりのお嬢さんをめぐってバーティの親友と他の男とが張り合い、それに対して近郷近在の村人たちの間で

(...)一種のスポーツ的反応が起こっているそうでございます。

というジーヴスの言い回しがそれを表してる。そしてジーヴス自身も、たしなみ深い態度の裏でキッチリと“スポーツの血をほとばしらせ“ているところが可笑しい。


 このシリーズあと2冊あるのだけど、続けてガシガシ読むようなものでもないし、文藝春秋から出ている『ウッドハウス選集』の方では「ジーヴス物」以外の作品が読めるみたいなので、どちらがいいか考えてみよう。


 *ジーヴスは、検索サイトAsk.jpのシンボルキャラクターにもなってますが、このイラストはちょっと邪悪さに欠けている気が。(追記:2006年3月1日をもって引退なさいました。→こちら

*1:元々は短編だったのを書き直したものらしい

*2:チドリの卵を食べるシーンがあるのも共通してたのが気になった。そんなにわざわざ言うほどの珍味というわけか