白地に蒼く無可有花

中井英夫『虚無への供物』再々々々?読了。(今回は創元ライブラリ全集版で)

 牟礼田、とてもヘン。これまであまり考えたことなかった、というかこの人をなるべく見ないようにして読んできたらしい。この人だけ服装への言及が全然(たぶん)無いので、どうにも頭の中で絵が描けないのかも。やっぱり人間じゃないのか。〈本格の精〉とかそんな者だったりして。
 着るものと言えば、久生さんの衣装さまざまが何度読んでも楽しいのですが、やっぱり《ダークローズのお召に、黒と金の、フランスレースを思わせるような豪奢な縫取りを見せた訪問着》に《白羽二重に、手描きの蝋纈でユートピア・フラワーを散らした帯》っていう組合せが一番見てみたい。ユートピア・フラワーってどんな花(笑)?

 亜利夫や久生はこのあと、1995年や2001年に来ることはなかったんだろうなという気がする。たぶん1970年でそのまま向こうへ引き返していったはず。これは1954年と1964年とのあいだを往還し続ける物語。悲痛な話のはずなのに、こちらから眺めれば閉ざされた幸福感すら覚えさせる。私たちはこんな〈時の辺境〉まで流され果ててきたというのにねぇ。