探偵の頭の中は薬草園

 エリス・ピーターズ『修道士カドフェルシリーズ 1 聖女の遺骨求む』(光文社文庫)読了。


 さる方の紹介文がきっかけで、シリーズ16作目『異端の徒弟』だけとりあえず読もうと購入したのですが、母が先にハマってしまって次々と買い込み読破中。けっきょく私も遅れじと1巻目から読み始めました。

 かつてNHKで放映されたテレビシリーズは、全部じゃないけどかなり観たはずの「カドフェル」物。私は『薔薇の名前』(原作&映画)よりも後に観たので、舞台は少し似ているものの『薔薇の名前』みたいな華麗なるケレン味やひそかなお笑いがほとんど含まれない、ただもう暗鬱な英国中世ものという印象でした。今回はじめて原作を手に取り、カドフェルの人柄がより明確に魅力的に表現されていたし、ユーモアも随所に感じられて、カドフェルシリーズそのものの印象がすこし変わりました。

 この『聖女の遺骨求む』も確かにドラマで観たはずなのに、内容はほとんど忘れていて、聖女ウィニフレッドが埋葬されている地元の教会もけっこう権威的な存在で、傲慢な者どうしの聖遺物争奪戦だったように記憶してました。原作を読んでみると、ウェールズの片田舎の善良な人々に、ウェールズ出身のカドフェルが同情するプロセスに説得力があり、ヒロインの恋のゆくえにもカドフェルが仕組む大胆な解決策にも、読んでいてけっこうハラハラ。殺人事件そして人間の醜い心理を扱ってはいるのですが、まずまず救いのある話として読み終える事ができます。


 母がどこかのサイトで目にした他のかたの感想の中に、ドラマ版のカドフェル役が不満で、「ショーン・コネリーのほうが良かったのに」旨が書かれていたそうです。でも原作の設定では、過去に十字軍参加の経験を持ち、さまざまな人生の苦楽を知ったすえに、いわばちょっと楽隠居するような気持ちで修道士の道を選んだことになっているカドフェル。あまり人格高潔な信仰者や英雄タイプではないし、だいいち仲間うちでいちばん小柄らしいです。だから、ずんぐりしたおじさんに見えるデレク・ジャコビでちょうどいいんじゃないかしらん。私はドラマ版のデレク・ジャコビを思い浮かべながらだと読みやすかったです*1。改めてドラマのほうも観なおしたい。DVD-BOXはなぜ全編収録してないのか謎。

 

 

*1:ちなみにコロンバヌスにはなんとなくキリアン・マーフィを連想。