行く年来る年、ことしもOhmori

 大森望『特盛!SF翻訳講座 翻訳のウラ技、業界のウラ話』 読了。


 ここ数日は、昼食時の「ながら読み」や移動時間にはこれを読み、就寝前には『祈りの海』を少しずつというぐあいでした『ゴシック名訳集成 暴夜幻想譚』はちょっと中休み(--;)ゞ)
 昨年暮れも、大森望本を読んでいた私。といっても今回は、たまたま久しぶりに図書館へ行ってみたら棚に残っていた(発売後すぐに読みたい人がひと通り借り終えた時期というわけ)ので借りてきたのですが・・。
 雑誌に掲載されてから年月が経過した文章には、情報を補足してアップデートするなど、至れり尽くせりの親切さはこの著者ならでは*1。そのサービスの良さが読んでいて何とも気分よく、年末年始のお楽しみにピッタリなんですよね、なぜか。さしずめ温泉にノンビリ浸かったあとテレビのお正月番組『お好み演芸特選』か何かを観ているようなほんわかした感じと申しましょうか。


 翻訳業にたずさわるようになった経緯、業界裏話や、よい翻訳のための実際的なヒントなど面白い話が満載なのですが、印象に残ったものの1つはワープロから始まって現在に至るまでのマシン環境の話題。初めて買った外付けHDの容量が80MBだったとか、NIFTY-Serveでチャット漬けになる話など、翻訳に限った話ではないのだけどじんわり懐かしい。
 翻訳小説を読みやすくするための心がけとして、漢字とカナの配分に対する気くばりを挙げてあるのですが、今なら画面上で文字づらをパッと一目で確認できますけれど、ワープロに液晶ディスプレイが一行表示分しかなかった頃(ありましたねーそういう時代)はそれすら難しかったわけで。やはり一度プリントアウトしてみないと、全体の感じが掴みにくかっただろうな。
 それからペリー・ローダンシリーズは100数十巻も続いているので、訳者あとがきはもはや本文と関係なく訳者のエッセイ連載欄になっている、という話がすごく面白そうで、私もあとがきだけ立ち読みしたくなりました。『そして誰もいなくなった』の翻訳に存在する欠陥の話にはビックリ。


 私も翻訳という仕事には憧れを感じるクチですが、この本を読んで、翻訳業に対する憧れが増す以上に、こんなに苦心して翻訳された面白そうなSFをあれもこれも読みたい気持ちのほうが昂進いたしました。それはとりもなおさず、SFの翻訳は(この本の中で強調されている通り)SFファンという人材によって支えられているちょっと特殊な世界であって、この本も翻訳一般についてというより、SFをめぐる面白い諸事情を教えてくれる誘惑本だということなのです。



 続いてこちら↓も読みます。

*1:ただし著者本人は、そのまめまめしい働きぶりが災いしたのか昨年大病を患われており、おいたわしい限りである