再び戻れない場所

ロナルド・ファーバンク『オデット』(講談社) 読了。

オデット
ロナルド・ファーバンク作 / 柳瀬 尚紀訳 / 山本 容子画
講談社 (2005.12)

人の世の思いがけない苦しさを知り、大人の世界に一歩踏みこんだいたいけな少女が、聖母の遣いとなる神々しいまでの秘密の一夜を、柳瀬尚紀の香りたつ名訳と、山本容子の繊細な銅版画で情緒たっぷりに描く。

 bk1に載ってるのは↑なんだか意味深長にもとれる紹介文ですが、とても可憐でせつないお話。おさないオデットが、優しい大人たちに囲まれ幸せに暮らすロワール地方の古城。美しい小鳥の声や木々のざわめき、夕焼けの色だけに囲まれていつまでも生きていけたらどんなに良いでしょう。でもある夜、マリア様に会いたくてさまよい出た川べりで、彼女も人生のある真実に近づく。
 親代わりになってオデットを庇護してくれている叔母のヴァレリ、信仰と刺繍の手仕事に没頭する静かな生活を続けている彼女にも、身を引き裂かれるような辛く苦しい過去があった。しかし、オデットの両親が事故で亡くなるという事態に至って、はっと目が覚めたように立ち直ったのだった。
 自分が誰かに手を差しのべようとする瞬間にこそ、救いの聖母は顕れる、オデットも同じく見いだしたそんな出会いを描いた物語。