退室禁止

 ナジャゴさんのエントリに刺激されて読んでみたスティーヴン・キングの「一四〇八号室」と「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」(短篇集『幸運の25セント硬貨』所収)。


 「一四〇八号室」←うーんなるほど、これは確かに「幽霊が出る旅籠」ていうような話とは違う。だまされた・・・
 解説者あとがきの「欧米と我が国の恐怖の質の違いがよくわかる」という点について、いつもならそういうふうには感じなかったかもしれないが、先日映画版(『怪談』)で観た『真景累が淵』と比較したりすると、さすがにその通りかもしれないという気になる。あれは人間の情念から出発して、「因」と「縁」とが積み重なりぐるぐる巻きの大渦になっていくみたいな話だった(「因果」とも言えない、理の通らない「縁」ばかりが畳みかけるようにもつれていくところがあの話の怖さ)。ところが「一四〇八号室」になると、もう「因」すらもどこにも見あたらなくて、いきなり絶対的恐怖がそこにあるというタイプの話。
 長らくこの部屋の清掃をしても比較的OK(?)だった双子の女性従業員の名前が(愛称で)シーとヴィーというのも、なんだか妖魔ぽくて怖い!それに支配人の態度もなんだか意味ありげで、ひょっとしてこちら側の人ではないのかも(^^;)・・。

 それから、映画版の「一四〇八号室」に主演しているジョン・キューザックて、以前にも嵐でモーテルに閉じこめられるみたいなスリラー映画に出てますよね*1。閉所恐怖映画向きの俳優なのか。

 「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」というタイトルは、déjà-vuのことをもやもやした言いかたで表現している。女主人公を繰り返しおそう既視感が、やがて辿りつく恐ろしい結末。それがどうにも避けられない、「しかたない」とだんだん感じられてくるところが読んでいて怖い。それでいて「なんとか助かってくれ」と思うよりも「はやくカタストロフが見たい」という気分になってくる自分がイヤ・・・。繰り返されることで高まるじりじりした焦燥感は、デイヴィッド・イーリイの「歩を数える」の主人公が追いつめられる様子を連想させる。nadja5さんが「歩を数える」に興味を持たれたのも、ひょっとして「例のあの感覚・・」と関係あるのかしら。

 他の収録作の中では、古典的な感じの「道路ウィルスは北へ向かう」も気に入った。「なにもかもが究極的」はもっと読み続けたい感じ→<暗黒の塔>シリーズを読まにゃならんのー(ひめい)。

*1:未見なので結末は言わないでお願い!