戦争が奪ったもの:『失われた子供』

 第二次大戦下のフランス。疎開のため幼い息子を連れて出発した母親が、その途上で空襲の犠牲となって落命する。終戦後、捕虜となっていた父親が帰還し、行方知れずになった我が子を探し求めて田舎町の養護施設にたどりつく。
 養護施設でたまたま出会った少年を我が子と思い込んでしまう、性急な主人公の行動には少し違和感もおぼえるが、妻の忘れ形見を取り戻したいという思いには同情できる。一方、親の迎え或いは里親が現れてくれるのをひたすら待つ孤児たちの切ない気持ちも胸に迫る。主人公と実子を繋ぐ思い出の大切な品=ウサギのぬいぐるみが出現する場面は、とつぜん立ち上がってくる記憶と、やっと手に入れかけた居場所を失うまいと必死な少年の思いがせめぎ合い、まるでサスペンス映画のような緊迫感があった。

 この物語とは異なるが、少し前にやはりNHK-BSのドキュメンタリーで、第二次大戦の占領期にドイツ兵とフランス人女性との間に生まれた子供たちが取り上げられていた。現在は60歳代になるその人々は、戦後その出生をタブーとされ差別や偏見に苦しめられ、ある場合は実の母にさえその存在を疎まれながら育ち、未だ「いったい自分は何者なのか」という苦悩のただなかにある。父親探しを援助する機関もあるが、多くは時間の壁にも阻まれて、目ざす相手を捜し当てることはかなり困難である。戦争はさまざまな形で人と人を引き裂く。