ドキュメンタリー「エボラ出血熱の教訓」

  原題は「笑い事ではない」「笑えない話」という意味かな。病気になったらまじない師のところへ直してもらいに行くと聞いたら、確かにちょっとプッと笑ってしまいそう。そんな土地柄で近代医療を行おうとするのはそれだけで大変そうだ。ましてそこで恐ろしい伝染病が広まり始めたら…笑ってる場合ではない。
 赤十字が派遣した医療スタッフたちは、予防や治療を受け入れてもらえないばかりか、「血を抜いている」「内臓を盗むつもりだ」などの疑いを掛けられる。現地住民に襲われて落命した人もいるそうだ。伝染がいちおう終息した時期のインタビューでも、まだ「取材カメラに撮られると死ぬ」などの危惧を口にする人も出てくる。
 番組の中では、医療スタッフ側がやり方を改善したことでやっと少し歩み寄れたというふうに説明されていた。それも、ボランティアとして赤十字の手伝いをしていた現地住民の家族から死者が出たのがきっかけだったという。例えば、感染者の出た家を丸ごと焼き払っていたのをなるべく薬剤消毒で済ませるようにしたり、葬儀もろくにさせず(人が集まることが危険だから)遺体をそのまま穴に埋めていたのを少しはお弔いらしい体裁に改めたり。要するに現地住民とその生活に対する敬意がやや不足していたのは事実らしい。
 しかし、せいぜい「赤十字の人たちは悪魔ではない」と認識された程度であって、なぜ病気になるのか、なぜ・どうやって感染を防がなければならないのか、などが一般に理解されたわけではなさそう。今後もこの地域からエボラ出血熱、あるいはさらなる未知の病がひろまる可能性がある。“テロとの戦い”ばかり言ってられない、これもまた怖くて難しい戦い、文化の衝突。