宇月原晴明『黎明に叛くもの』『天王船』 (共に中公文庫) 読了。
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NHK大河ドラマというものを初めて観たのが『国盗り物語』である私にとって、織田信長=高橋英樹であり、明智光秀=近藤正臣であり、斎藤道三=平幹二郎である*1。活字でこれらの人物が登場する時に、別の顔を思い描くことはなかなか困難。しかし、今回読んだお話の主人公である松永久秀という人物に関しては、なんの予備知識も持ち合わせずドラマで観た記憶もない。いきなり本書を読んだおかげで、よけいに強烈なイメージが焼き付けられる結果に…(『国盗り物語』ではどんな俳優が演じていたのかいちおう調べてみたけど、よくある悪役顔の時代劇俳優という感じしかわからなかった)。将軍を殺し、主君を殺し、東大寺の大仏を焼いて、「世人のなしがたき事三つなしたる」人物として戦国の当時ですら恐れられ不気味がられたというのだから、事実かなり強烈なキャラクターだったのだろうが…
さて、その斎藤道三と松永久秀がじつはペルシャの暗殺教団の流れをくむ<波山の法>を身につけた刺客だった(しかも二人揃ってたいへんな美貌*2)という、まさにとんでもない設定で始まる『黎明に叛くもの』。開巻まもなく、信貴山城を訪ねた光秀たちの眼前で青衣の袖をひらめかせ旋回する久秀の超人的・魔術的な姿が印象的なのだが、その後は天下を夢見るものの決してかなわず、かといって(信長の天才を早々に見抜いて天下取りの夢を譲った)道三ほどの悟りの境地(?)にも至れず、「しょせん小姓あがりの卑しい身の上だからか」ていう感じで懊悩するようすがけっこう現世的で普通サイズ。このあたりはアマデウスに対するサリエリみたいな「あ〜、あるある」という話になっていて切なく、ちびっと共感してしまいそう。
そんなわけで、オカルト色が強くてやや読者を選びそうな感があった『聚楽』に比べ、一般の戦国物・伝奇物ファンにもけっこう楽しめそうな作品。とはいえ、スーパーナチュラルな威力を発揮する謎の茶釜「平蜘蛛」やら、三種の神器の裏バージョンらしい「天の沼矛」やらも胸をときめかせてくれる。ということで、こんな↓本も読んでみたい
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