最初からそこにある

津原泰水ルピナス探偵団の当惑』(創元推理文庫)読了。

 私立ルピナス学園高等部に通う女子生徒トリオ+1が主人公のミステリー。私は、(恩田陸の作品など)高校/学園ものに弱い。私にもあるはずだった、しかしついに訪れることのなかった、楽しげでちょっぴり切ないロマンチックな高校ライフに思いを馳せてしまうので。登場人物たちのきびきびした会話と行動に若さが充ちているのは当然として、解説にもあるとおり、この作者の描くキャラクターというか、会話体の自然さはたいへん快い。
 とはいえ、本書はさいしょに予想したよりは「高校生もの」という要素は弱く、事件はどれも学園から遥かに遠ざかった場所=人気作家の自宅、「館」や劇場といった非日常的な場所で起こる。そのわりには事件も謎解きも、私にとっては意外にあっさりしていて少し物足りなくさえあった。ただし最後に収められた作品「大女優の右手」の結末ちかく、

「これかい」と彼が右手を上げ、そしてあたかも宙からつまみ出したのは、輝く輪だった。

というくだりでは、「手を一閃して、虚空から花を掴み出す」という有名なフレーズを思い起こし、とりたてて同情共感を呼びおこされる謂われもないこの人物をまえに、なぜかしら涙まで浮かんできてしまうエンディングなのだった。