出発の秋

 戸口や窓を開けると、あらあらしいほどにキンモクセイが薫る。再びアースシーへの旅に出た(5巻め以降は初読になる)。


 読み始めて間もなく、緒形拳さんの死が報じられた。寝る前に『影との戦い』を読んでいると、幼いゲドを導く老魔法使いオジオンは、頭の中でいつのまにか拳さんの姿になり、オジオンの台詞は拳さんの声で語られていた。「ゲドよ、わしの大事な若ダカよ、そなた、いつまでもわしのところにおらずともいいんだよ。」

かれは大きなスズカケの木の下に雨をよけ、マントにくるまって横になった。なつかしいオジオン師匠のことがあれこれと思い出された。今頃はまだ秋の逍遥を続けていて、ゴント山をあちこち歩き、葉の落ちた木を屋根がわりに、降りしきる雨を壁がわりに、やっぱりこうして野宿しているのではないだろうか。ゲドの顔に静かな微笑が浮かんだ。オジオンのことを思うと、どうしていつもこんなに心が慰められるのだろう?ゲドは闇の中に降りしきる冷たい雨の音を聞きながら、安らかな眠りにおちていった。

私も半分うつらうつらしていたのかもしれない。