古典的な歩調で近寄ってくる恐怖

 先日読み終えた『治療島』の原題は"Die Therapie"、『前世療法』のほうは"Das Kind"。どちらも短くそっけないタイトルだが、その感じはうまく残しつつも、はるかに怖〜くて読み手をそそり、しかも内容にぴったり沿った邦題が付けられているのに感心した(というか、邦題に誘われた読んだようなもの)。


 いま読んでいるのがこれ↓

刈りたての干草の香り (論創海外ミステリ)

刈りたての干草の香り (論創海外ミステリ)


 原題は"A Scent of New-Mown Hay"だから「そのまんま」である。
 同著者による『小人たちがこわいので』(有名らしくこっちは私も聞いたことがあった)のほうも、"For Fear of Little Men"でそのまんま。しかし、後者はいっぺん眼にしただけでも忘れられないぶきみさがあり、まさに「こわい」タイトルなので、もし出会ったら手にとって読まずにいられないと思う。それに対して『刈りたての干草の香り』のほうは、いっけん何を指すのか、それがどうしたのか見当がつかないぼんやりしたタイトルだが、表紙を飾る鉄条網の写真の不穏さと、何よりも『小人たちがこわいので』と同じ著者だということが、なんとなく胸騒ぎをよぶ。
 そんな気分で読み始めたこの本、問題の核心が明かされてくるにつれて、いったいこのタイトルが何を示していたのか、知りたいような知りたくないような、まさに微妙というか絶妙なタイトルのように思えてくる。というわけで中途はんぱに、つづく。

 奥さん、マズラというのはかわいらしいやつでしてね。つるんとした、害のない茸です。ただ、それから名前が由来するマズラ足という病気ほど気持ちの悪いものは熱帯病の中でもおそらくないでしょう。裸足で歩く原住民が害のないこの茸を裸足で踏んだときに、皮膚自体が薄かったり傷があったりすると、そこから胞子が体内に入ってしまいます。そして胞子がいったん定着してしまうと、むごたらしい死から救う方法はただ一つ、患部の切断しかありません。