- 作者: レオペルッツ,Leo Perutz,垂野創一郎
- 出版社/メーカー: 晶文社
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: 単行本
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二十世紀初頭ウィーンの、気だるいような雰囲気のなかで起こる謎の連続自殺(殺人?)事件。語り手は最初っから甚だ危なっかしく、登場する誰もが少しずつ怪しく、そしてドグラマグラ感あふれる結末へ…!
巻末の解説*1にも書いてあるから言うのではないが、やはりこの結末は「どんでん返し」というよりも、そのまま投げ出されたパラレルワールドという印象。増設されたもう一つの出口*2。第1章が「後書きに代わる前書き」となっていて、さいごに置かれた「編者による後書き」を打ち消しているのは、語り手自身が後書きで提出される解決(解決その2、と呼ぶか)を予め知っていて先回りしているみたいだし。
それに、その前書きのなかで語り手が
死ぬまぎわにゾルグループは羊皮紙のページを始末した。これ以上おぞましい迷妄に陥る犠牲者を増やさないために。しかし、あの羊皮紙があの手の唯一のものというのは、果たして間違いない事実だろうか?世界のどこか忘れられた片隅に、あのフィレンツェのオルガン奏者*3の記録があと一部、黄ばんで埃と黴まみれになり、鼠に齧られながらも、骨董屋のがらくたの下敷きになって、あるいは古い図書館の二折版(フォリオ)の後ろに隠れて、あるいはエルジンジャンかディヤルバキルかジャイプールの露天市場(バザー)で、絨毯や半月刀やコーランの匣の隙間に埋もれていはしないだろうか。そして虎視眈々と新たな犠牲者を生む機会を狙っていはしないだろうか。
と危惧しているように、この世にはいろんなものが2つずつ用意されているのだ。解説で「(この作品のテーマには)なにかユダヤ的な世界観が関係しているのでしょうか」と示唆されているが、そうそうトーラーが2枚だからおそらく羊皮紙も2枚なのねと妄想を逞しくするのだった。