古川日出男『ベルカ、吠えないのか?』読了。
- 作者: 古川日出男
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2008/05/09
- メディア: 文庫
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ハハハ、この作者は狂っとるね! 後半、どんどんホラ話が暴走していくので止められずほぼ徹夜読み。というよりもむしろ初めから、晴れ渡った朝、徹夜明けの眼に度の強すぎる眼鏡をかけて眺める景色みたいに、ぎらぎらとピントが誇張されリアルで歪んだ調子で描かれつづける小説なので、読んでる間は口の中がずっと徹夜の味がする。
一番可笑しいのは、アメリカに生まれベトナム戦争下、地底のトンネル網でついに落命する雄犬DEDに向かって語り手(誰?)が(お前の血脈と能力を受け継いだ息子が育ったから) 「安心しろ。」「成仏しろ。」というところか。戦争の世紀=軍事犬の世紀の物語なので、もちろん犬は戦争や事故やでバタバタ殺され死屍累々、犬好きには心傷む場面も多いですが、『ティモレオン』よりは救われる気がする(ウソ。救われない)。
オ前ハ雑(マ)ジルいぬカ?
うちで15年を暮らした雑種犬Nちゃんは、どこでどう雑じってできた犬だったのか、彼の背後にも長い長いイヌの歴史があったんだ(彼の眼前にはついにそれは延伸しなかったが)と思い、この正しい生き物たちのひそかな勝利を私も夢想する。女たちに率いられて、もはやなんの血縁もないイヌの一統がカムチャツカの島を目ざすエンディングでは、やなぎみわのこの作品をなんとなく思い出した。それと、もしこれをイヌ系図抜き(単行本はそうだったみたい)で読まされたら、私はついていけなかったと思います。