戦争柄キモノに驚く


 着物の柄に現れた戦争表現を、時系列に沿って、時代背景の解説・映像とともに紹介*1。じっさいに着物の図案を描いておられた方や着付け専門家など、当時から着物に接していた人の証言もあって、非常に興味深かった。
 男児用の着物に戦闘機や軍艦の絵柄、というあたりまでは想像できたのだが、「満州建国」「松岡洋右国際連盟脱退」などの具体的なトピックが、まるで号外とかニュース映画みたいにスピード感をもってデザインされ、襦袢や羽裏などに染められていたのには本当に驚いた。しかもどれもアイデアを尽くして巧みにデザインされたものばかり。吉見俊哉氏も「1930年代は、戦争に向かいつつもまだ消費の時代だった」とコメントしていたけど、まさに「あー、まだこの頃はお腹が空いてなかったんやな」と思わせられる元気なブツが並んでいた。(戦争も末期に近づくと、新しい衣類はなかなか作られなくなり、最後まで戦争柄モチーフが残ったのは子供用のお茶碗など食器類だったというが。)猛々しいまでのアイデアと創造性が注ぎ込まれた先がこのようなジャンルだったことを見せられると、まことに複雑な気持ちになる。
 昔ながらのまるい顔をした男の児を「爆弾三勇士」に見立てて図案化したものや、楽譜+歌詞+イラストの3種を盛り込んだ大胆なデザイン*2、銃後の女性としてあるべき生活のタイムテーブルを時計みたいな文字盤を中心にしてスローガン入りで描いたものなど、悲惨なのに笑えてしまう創意工夫の数々。「日韓併合」を記念する図案の中で、大きなハングル文字の輪郭の内側をアイヌ文様で埋めた意匠は、(もちろん考えついた人はそんな気持ちではなかったはずだけど)なにか悪魔的なものを見せられたような気がしてショッキングだ。どれもドンヨリしてなくて張り切ってデザインされているところが、よけいに「狂気」ぽいものを感じさせてしまう。サイトの解説にもあるとおり、これらは消費者が求めたからこそ商品化されたのであり、時流の先端を行ってると思われるためなら阿鼻叫喚の行列もいとわない現在のお客さまたちも、この同じキモノを着るだろうというヒンヤリした確信が胸中に生ずるのであった。
 また、(キモノ自体からは少し外れるけど)愛国婦人会と国防婦人会の対立とか、当時40歳にもなるとなかなか身につけられなかった赤い色が、「日の丸」柄なら堂々と身につけられるという秘かなオシャレ心もあったのでは…という指摘、など。いろいろと面白すぎる番組だった。

*1:たしか同様のテーマでさいきん関西で展覧会があったと思うのだけど、そちらは見に行けなかった。テレビで見られてラッキー

*2:これは「爆弾三勇士」だったか他のモチーフだったかちょっと失念したけれど、とにかく「三勇士」は人気のあるネタで、着物に限らずいろんなジャンルで再現されたらしい。