- 作者: タニスリー,Tanith Lee,安野玲,市田泉
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2007/09
- メディア: 単行本
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未読のくせに、「タニス・リー」という名前になんとなく持っていたイメージは、往年のニナ・ハーゲンのような強面のお姐さん。心惹かれるところも有りつつ、あまりお近づきにはなりたくないタイプと思っていた。この短篇集のタイトルもますますそんな感じだし…
しかし、この作品集を読んだかぎりではゴスっぽさはほとんど感じなかった。巻末の解説によれば、タニス・リーの多彩な作品のなかから「ホラー色の強い幻想怪奇小説」を中心に編んだとのことだが、怪奇幻想というよりは、正統派おとぎ話の情熱的でゴージャスな変奏曲と呼びたい世界。頽廃的とか背徳的とかいわれるような要素も想像していたほどではなく、むしろ一途なラブストーリー(?)が多かったのは意外なほど。鮮やかな色彩描写はくらくらしそうだが、私にとってはこのところ読んだ他の幻想系の小説に比べても、視覚的に非常に思い描きやすく入っていきやすい造形だった。
「蜃気楼と女呪者」「青い壺の幽霊」などは、恐ろしい魔女(と思われていた女)が、特別なただひとりの男の到来によって素顔を明かされてしまう話なのだから、言うならば「ねむり姫」とか「白雪姫」などお姫さま物を裏返したような感じだ。異様な感動を胸に残す「別離」も、数百年の年経る女ヴァンパイアは普通の吸血鬼と思ったら…驚くべき逆転が仕掛けられていて、これも女性度満点。女錬金術師が登場する「黄金変成」の重々しい語りも良い。読んでいて「女のコで良かった!」(ヤケクソと本気と半分ずつ)としみじみ思える一冊です。
ところで、「別離」の主人公、ヴァンパイアにひたすら長く長く仕えた忠実なる老従者(執事タイプ)、あいかわらず脳内アンソニー・ホプキンス→途中でイアン・マッケランだったのだけど、他に誰かいませんかね適役。二百年前の服装と「姫さま…」という台詞が似つかわしく、死期が近づいているけど身体のキレがすごいという、難しい役(笑)。