遺伝子格差顔

ガタカ [DVD]

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 「これは大切(とても好みに合いそう)な作品だから、いつか時間のあるときにゆっくりと…」なんつって後回しにしている映画が数知れず。これもその一本。*1


 遺伝子操作により、優れた要素だけを組み合わせた子どもを作ることが普通になっている近未来社会。自然に任せて産み落とされたフツーの子どもは「神の子」と呼ばれてしまう。その一人、ヴィンセント(イーサン・ホーク)は、遺伝子的に優秀な弟に劣等感を抱きながら成長する。宇宙飛行士に憧れながらも、先天的な肉体条件が「不適正」なためにとうてい夢がかなわないと知ったヴィンセントは、「適正」な遺伝子を持ちながら不運にもそれを生かせなくなった人物からスペックを買い取り、別人になりすます。

エリートが何かの理由で悲運に見舞われた時、彼らの遺伝子は高値で取引される。人の不幸が、幸運を招く(One man's lost is another man's gain)。

 優秀な運動選手だったジェロームジュード・ロウ)は、事故のため車椅子生活となり、隠遁者のように暮らしている。生身としては社会から見えない存在になっているが、データというか「籍」のようなものの上では生き続けているらしい。この取引にはまさにそういう存在が必要なわけだ(死んだはずの人の生体データと合致したらマズいから)。
 「都合の良い[生]体」の一部利用……ただしこの場合は「臓器」ではなくて、「遺伝子」それもデータとしての。じっさいヴィンセントの身体の上ではその優秀な「遺伝子」は全く発現していないのだけど、それは問われることはないのだから。
 ジェロームが血液や尿を提供し、ヴィンセントはそれを隠し持ったり仕込んだりして会社での日々のチェックをくぐりぬける(この辺かなりムリあり)。しかし土星への飛行が実現する直前になって起きたある事件のせいで、ヴィンセントの周囲に疑惑の眼が集まり始める。

 たとえ遺伝的に優れた知力体力に恵まれていなくても、(機会さえあれば)努力により大きな成果にたどりつくことができるというポジティブな話を読み取る人もある。しかし、自分に成り代わられてしまうことに当初はシニカルな態度だったジェロームが、やがて「僕のほうも夢を見せてもらったよ」的なことを言う場面は、なんとなくうるわしい「命のリレー」言説をそぉっと押しつけられたようで少し気分が悪い。って、こっちが勝手に連想しただけですが。最後のジェロームの選択も、あってはならないことのはずなのに…マイケル・ナイマンの音楽*2かぶせると何もかもが、ただ美しい悲しみに染まってどーでもよくなってしまう。
 かなりCG加工されたような、いかにもつるんとした弟アントンの顔に比べて、欲望や執着や焦燥が焼けついたような、卑しさまで感じさせるイーサン・ホークの表情がリアル。


 それと全くの余談ですが、『名探偵モンク』のトニー・シャローブが本作では遺伝子ブローカー(?)役で登場。彼は、ずっと前にみた『クローン』にも出ていて、ぜんぜんSF的容貌とは思えないのに、しかもどちらも「なりすまし」映画なのが可笑しい(シャローブ自身はなりすまし役ではないけれど)。 

*1:さいきん残り時間の少なさが切実になってきたので、あれこれ片付けていこうと努めている。不吉にならない程度に ̄∀ ̄;

*2:知らなかったのでさいしょ「お、ナイマン調やな!」と思ったら本人だった。