手放せないものが多すぎる


「がらくた市」は、番組の中ではbrocanteと呼ばれていました。vide-grenier(屋根裏を空っぽに、一掃処分、ていう感じ?)という面白い言いかたもあるみたいですね。

フランス、ブルゴーニュの小さな村で開かれるがらくた市。出店するために不用品を整理する村人たちが、それぞれの物にまつわる記憶を語り始める。村で起きたドイツ軍とレジスタンスの戦いの記憶がよみがえる老人。離婚して子連れで戻った女性は、生家を売却するために母の遺品を整理する。カフェの主人の秘められた過去。村の歴史や人生を、がらくた市の品々から丁寧に描き、郷愁の思いを胸に今ここで生きる人々を見つめる。


 一篇の劇場映画を観たくらいの満腹感。


 子や孫の世代は村を出てしまい、もう住む人もなくなった家を家財ごと売り払おうとする。見るからに古くさくて大きくがっしりした、モダンな暮らしには持ち込みようのなさそうな家具が並ぶ部屋。箪笥を開けると、亡くなった老婦人のものであろう洋服がずらりと並んでいて、きちんとした暮らしぶりがまだそこに残っていた。反対に、先立ってしまった妻が並べた装飾品だから、置き位置すら変えたくない、手放すなんて考えられないと言い張る老人も出てくる。記憶も好きなだけ手放せたらずいぶん楽だろうな、と思わせる場面が幾つもあった。


 カフェの主人はかつて何台も自動車を持って、小さな村の幾つもの仕事を受け持っていた。学校の送迎バス、救急車。タクシーも兼ねていたのかも。今でもカフェ経営の傍ら、葬儀業は続けていると言うので驚いた。絵はがきに残る昔の村の様子や、年配者の話からは、100年前のこの村はかなりの繁栄ぶりだったことが窺われた。いまはヴァカンスへ行く車が通りすぎるぐらいだとか。「がらくた市」は、そんな村に掘り出し物を求めてよそから人々がやってくる貴重な機会になっているようだった。