十数年前の思い出

(イヤかもしれない言葉が出てくるのでご注意)


 1990年代前半、アルバイトとして通っていた職場で、雑談中に「バカチョンカメラで…」と言ったら、ほぼ同年代の同僚から「チョンていうのは朝鮮人を差別する言葉だから、言ったらあかんで」と注意された。


 その時まで、「バカでもチョンでも」の「チョン」に具体的な意味があるとは思っていなかった。「猫も杓子も」といいながら、なぜここで「杓子」なのか?といちいち考えないのと同じで、あるいは"okey dokey"の"dokey"みたいな感じの、語調を整えるための合いの手とか、ほとんど言葉遊びみたいに思っていた。だから、buyobuyoさんの引用にある「明治以前からあるバカとか間抜けとかを表す言葉」というほどの認識すら、私にはなかったわけ。

 まして「朝鮮人」を指す言葉だとは想像も出来なかった。もちろん聞いたおぼえもなかったし、だいいち(在日韓国朝鮮人に対する差別が存在することはあるていど聞き知っていたが)「朝鮮人」を差別するための蔑称というものがわざわざ存在するということすら、生まれて初めて知ったのがその時だった。たいへん驚いた。


 新興住宅地でのんきに生まれ育ったため、偏見どっぷりというような環境からは少し離れていられたという事情はあったにせよ、ずっと関西で暮らしていて、30歳になるまでそんな言い方があることすら気づかずに生きていられたのは、私にとって幸せなことであり、いらん事を教えてくれた同僚に対しては、正直なところ今でも複雑な感情を持っている。


 というのは一つには、それから間もなく「バカチョンカメラ」という言い方は侮蔑的だから止めましょうという動きが、メーカー側からだったか何だったのか、とにかく起こってきて*1、たぶん私も数年後には、何も知らないままであっても「バカチョンカメラ」というそれ自体あまりお上品な響きではない呼称を使わないようになっていただろうからだ。
 二つめには、《同僚にそれを教えられて以来、注意して周囲の言葉を見聞きしていたら、なるほど確かにそれは朝鮮人を侮蔑するための呼称としてさかんに使われていることに私は気がついたのでした》……というようなことは全くぜんぜん起こらなかったからだ。それを知ってしまってからでも、私が直接じぶんの身の回りでその言葉が使われているのを見聞きすることはなかったし、もちろん新聞やテレビでも使われることはない。ネットを利用し始めたのもちょうどその頃だったけれど、Nifty-Serveのフォーラムで趣味に関する話題がやりとりされるのを読んでいたような最初のころは、悪意を持った差別的な書き込みを目にする心配はほぼ皆無だった。


 けっきょく、「あぁ、ほんとにそういう事を言う(書く)人がいるんだ…」と思い知ることになるのは、2ちゃんねるなんかを見るようになってしまった、ごく最近のことだ。それはネット環境とそれを利用する自分の変化が引き起こした、仕方のないことだけど、あの時、彼が「チョン=朝鮮人差別」という黒い「事実」を私に知らせさえしなければ、あと10年ほどはそんなこと思いもせずに清らかな私(笑)として生きていられたかもしれないのに、という恨めしい気持ちは残る。
 

 そんなわけで、非常に見聞が狭い私個人の経験に限った話をながながと書きましたが、

バカチョンカメラ」とか「バカチョン式」という言葉が普通に使えたことから、「チョン」という言葉が朝鮮と結び付けられていなかったことは明らかだと思う。

とbuyobuyoさんが考えておられることは、少なくとも私の周辺に関してはある程度当たっていると思います。


追記:
http://b.hatena.ne.jp/Wallerstein/20090909#bookmark-15892451

30年前、というのは何となく実感として当たっている。私の両親は平気で使っていて、30年ほど前に朝鮮という意味がある、という解釈を知ってびっくりしていた。

 このご両親に近い経験を、かなり後れて私もしたことになるんだと思います。

*1:もちろん「チョン」が「朝鮮人」の蔑称だからというような説明は無かったと記憶する。単に、操作が簡単であることを説明するのに「バカでも使える」という言い方は不適切だろう、という理屈だったのではないか。