砂で書かれた世界

 飛浩隆『グラン・ヴァカンス』読了。

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

 ずーっと前に図書館で借りて読み始めたものの、「鉱泉ホテル」に生存者たちが集結するあたりで貸出期限が来て、そのままにしてしまっていた。題名から想像されるほどロマンチックな話じゃなさそうだ…と、さすがにその時点でも判ってはいたけれど、けっこう激烈な展開が待っていた。でも巨人ランゴーニとか、捕らえられた住人たちが解体されたうえ一個の球体と化して転がっていく場面とか、SFというよりも幻想絵画を思わせる(ピラネージ?とか、ボッスとか)イメージが多く出てきて、忘れがたいものを残した。


 今回『アラビアの夜の種族』に続けて読んだのは偶然だけど、無関係なこの2作にもいろいろ共通点があるように感じられて面白かった。閉ざされた空間内で超人(?)的能力どうしのバトルが続くところとか、登場人物が捏造された記憶を負わされ(過去を奪われ、書きかえられ)ているところとか。あるいは、一瞬でありかつ永遠であるような時間と、引き延ばされる苦痛について書かれているところとか。
 作品世界のなかに、もうひとつ入れ籠状に物語が存在しているのも共通点といえる。(『アラビア』の場合は、謎めいたズームルッドが語るその物語がじっさいにはあの作品の大部分を占めているけれど、『グラン・ヴァカンス』では「クレマン家のクロニクル」などと呼ばれてその存在が言及されるだけで、その姿はちらちらとしか見えない。そして、「夏の区界」の住人たちは、それが偽書であることを知っている。でありながら、その書物?が彼らの現在のありようを規定している。)それから、どっちも砂が書いた物語だというところも。


 永遠のサマー・リゾートという『グラン・ヴァカンス』の設定を知った時に連想した(けれど結局はあまり似て無さそうな)あの本を、せっかくなので、すんんごい久しぶりに再読することにした。砂つながりで。


おや、書影が出ない。ハ○カワは、はよ復刊するように。しないなら創元に譲るとかさ。