19世紀の香り(見てはダメ)

 ジェフリー・フォード『シャルビューク夫人の肖像』読了。

シャルビューク夫人の肖像 (RHブックス・プラス)

シャルビューク夫人の肖像 (RHブックス・プラス)


 ちりばめられた個々の奇妙なエピソードや変テコな職業は『百年の孤独』と同じくらい突拍子もないものだけど、それが前々世紀末ニューヨークの街並みや社交界のしっとりとセピアがかった背景に包み込まれて、ロマンチックと「バカ?」が入りみだれた世界になっている。
 シャルビューク夫人と忠実なる助手のワトキンの組合せは、あのタニス・リーの「別離」に出てくる従者と姫君を彷彿とさせたので、一瞬これはヴァンパイア物なのかしらと錯覚した。まぁ広義のそれではあるかもしれないが…それとたぶん全然似てないのだけど、ファウルズの『魔術師』を思い出した(というか、私はあの小説をほとんど読めもしていないのに、どういうわけか何を読んでもあの小説を思い出すのだ。ネタ貧困。)。男がお芝居じみた試練の連続に遭遇し、心優しい誠実な恋人を裏切り逆に見捨てられてしまうところとか。

 シャルビューク夫人の数奇な運命は、父親からは見る役割を割り当てられる一方、母親からは見たことの罪を負わされた結果、歪んだ成長を遂げていく子供の末路である。また同時に、世にも稀なことに見る能力を備えていた女が、それゆえに見られることを拒み続けた結果である。見られて値踏みされることを徹底的に拒否した女が、手ひどく罰され壊れた話だとしてしまうと、えらい陳腐かしらん。画家のピアンボ(もちろん男)は最後まで(見えないものまで)見ることに徹した結果(かどうか)、辛くも破滅を逃れて再生するというのに。


 次に読む本を抽選してみたら*1、これが出たので読み始めたところ:

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

 なんと、これら2作は{19世紀}と{ナツメグ}という言葉で繋がっているのでありました。摩訶不思議。

*1:最近はこのサイトのサイコロを振って決めたりしています