おのおのが母という怪物から生まれ

 サラ・ウォーターズ『荊の城』(上・下)読了。このカバー画、よろしぃなぁ。


荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 上 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

荊[いばら]の城 下 (創元推理文庫)

 このまえ書いた『シャルビューク夫人の肖像』に引き寄せて言うなら、これもまた非凡な二人の少女が徹底的に「見る」話。だけど、最も良く見て、見通していた、と自分では思っていた者が、じつは見えてなかったという話でもある。
 ヴィクトリア朝の興味深いファッション*1、暗鬱な城館や猥雑なロンドン下町、生き地獄のような精神病院の光景と、そこで揺さぶられ沸騰する人々の心理の、執拗かつ繊細な描写を楽しむ読書だった。しかし、ふたりの運命の変転をつきつけられると、果たして人の邪悪や狡猾はどこから来るのか、純粋さや善良さはいかにして生き延びるのか、ひとは生まれか育ちか、…てなことも考えさせられてしまう。


 そもそも、東京創元社の読者プレゼントでDVDを貰ったのがきっかけで、じゃ原作本も買って読まずばなるまい、映像のほうはその後で…と思い立ってから早2年(そんなのばっかりやなぁ私)。これでやっとDVDが観られます。あの両面仕立てになった語りを、映像ではどう表現しているのか楽しみ。東京創元社さん、長期放置してすみません。

荊の城 [DVD]

荊の城 [DVD]

*1:先日みた映画『副王家の一族』の主人公である青年も、この物語のモード・リリー嬢と同様に、なぜか常に白い手袋を嵌めているのであった。モードの場合は明確な理由があるのだが。