『完全演技者』

完全演技者

完全演技者

 モデルとなったアーティストは、私にとってはその存在を知ったと思ったらもう居なくなった人だったので、そこからこれだけの妄想を汲み出せるほどの厚みのある存在と感じたことがなかった。その意味で、意外なお話。
 それでも、読み進むうちに80年代の青春がよみがえって胸が熱くなる…はずはなく、第一そんな青春なんて私には無かったはずなのに、なぜか“虚偽記憶”みたいに、ありもしない“あの頃の日々”が思い出されるのだ。主人公がむらかみはるきっぽい気がしてしまうのも、単に80年代のせいだろう。誰もが多少なりとも他人の記憶を生きる。