生まれた時から知らない町で

 アゴタ・クリストフ『どちらでもいい』(ハヤカワepi文庫)

どちらでもいい (ハヤカワepi文庫)

どちらでもいい (ハヤカワepi文庫)

 『悪童日記』に始まる三部作で有名な著者の、ほぼ掌編ばかりを集めた一冊。

 作者自身が現実に体験した苦しい歴史をどうしても前提として読んでしまうのがこの人の作品だろう。しかし、自分が間違った場所に置かれてしまっているという強烈な孤独と絶望があまりにすっぱりと端的にシンプルなためか、かえって幻想味をおびた不思議な感覚が生じている。さほど突飛な設定や空想的な要素ばかりではないのだけれど、結果的にエリック・マコーマック『隠し部屋を査察して』を読んだ時に似た気分になった。

 「運命の輪」だけはちょっと他と違う味わいがあって、ニック・ケイヴの曲の歌詞みたい…とあの声を想像しながら読んだ。