人名を平板読みすると安っぽい

 平板アクセントが耳ざわり…という話ばかりで、もうこんなことわざわざ書いても何の意味も無いんじゃないかと思うくらい、例が多すぎるわけですが、しつこく今日の記録として。


 たしかテレビ朝日の、お昼前のニュースで男性アナウンサーがキム・ヨナ選手の名前を【き/むよな】と発音しているのが耳に引っかかった。【ム】から【ナ】までが真っ平らな発音。「選手」を付けた時も、【き/むよなせ\んしゅ】という抑揚だった。同じニュースの中で、浅田真央選手のインタビューが流れていたが、談話の中で浅田選手は【き/むよ\なせんしゅ】*1というふうに発音していた(さすがに浅田選手が呼び捨てしている音声は探すのが難しいかもしれない)。

 「姓」2音+「名」2音という短い名前だから、ついひと続きに平たく読んでしまうのかもしれないが、たとえば【ビル・ナイ】という人名をアナウンサーが【び/るない】と発音するとは考えにくい。もしかしたら【き/むよな】がハングルでの抑揚に近いとか、そういう事情があるのかもしれないが、それを言うなら「すべての外国人名に対して現地語読みに最も近い発音や抑揚を採用している」のかというと、そうではないだろう。NHKのアナウンサーだって、カタカナで表記された外来語や外国由来の人名や事物名に関しては、日本語の中の外来語としての発音規則に従って読んでいるはずだ。


 どこに書いてあったのか思い出せないが、「平板アクセントは話者が対象に対して慣れたときに発生する」というような説をネットで読んだ気がする。たとえばギターという物を知って間もないあいだは【ぎ\たー】と発音していたのが、すっかり使い慣れてギターなんてべつに特別なものじゃないよ、という段階になると【ぎ/たー】になる、とかそういう話だったと思う(違ってたらごめんなさい)。この説明がどのぐらい妥当かはわからないけれど、少なくともある種の単語に関しては、「自分はその業界では専門家なんだよーん」というような衒いの響きが平板読みに込められているのをたしかに感じる。そうでなくても、ほんらい「姓+名」の2つのパーツでできあがっている人名を、ひと息に続けて読んでしまおうとしているような平板読みは、なんとなく対象を軽んじているようで聞き心地が良くない。
 ちょっと前に書いた【テロ未遂事件】だって、「テロが未遂に終わった事件」なのであって、読み手がちゃんとそういう意味を理解し、かつ聞いている側にも伝えようとする姿勢で発音すれば、【テ/ロミスイジ\ケン】にはならないと思う。なんでもかんでも早く読めばよいとばかりに続けて読んで、「“てろみ水”ってなんだよ?」と聞き手に思わせるようなニュースは不親切だし、手抜きのように思える。

*1:【せ】と【ん】の間で若干下がるようにも思うが、そういう抑揚をどう表したらいいのかわからない。