『冷たい肌』感想(ややネタバレ)

 『冷たい肌』読了。

 20世紀前半。祖国アイルランド独立闘争に身を投じたものの、独立達成後こんどは同胞のあいだで圧政が繰り返されるのに失望した主人公。半ば自暴自棄で求人に応募し、一年間気象データを記録するという単調な仕事のために絶海の孤島へ上陸した彼が、そこで体験することになった悪夢のような出来事…っていう話。
 コミュニケーションどころか何の推量も及ばない相手との共存というか共在を強いられ、しだいに正気を失う、というところは『ソラリス』的(狂ってる前任者という設定も似てる)。なんとか安定する位置・この世界との和解点を見つけようとすればするほど、他者との遠近感が狂っていく感じが絶望的である。


 これを読み終えたあと、途中になっていた『戦争サービス業』の続きを読んでいたら、『冷たい肌』の主人公が応募したのは「国際海事協会」なんかではなくて、民間軍事会社の仕事だったのでは?そして送り込まれた異国であまりに残酷な戦いと究極の恐怖を体験したため、記憶が変形して、現地民が×××だったように思い込んでしまったのでは?『冷たい肌』の内容は、ぜんぶ主人公の脳が描き出した幻想なのでは?…などと、勝手に(『戦場でワルツを』風味も加えて)ヴァリエーションを奏でてしまった。でも主人公の前歴からいえば充分ありそうな話だもんね。

 映画化の話もあった、とのことですが、それでなくても一応アタマの中で映像化せずに読むことはできず、“マスコット”の容姿を想像するに、ついつい『アバター』の青い女の人を思い浮かべてしまったけれど、あんな良いもんじゃないよねきっと。“マスコット”との関係だけは理解できん。というか思い描くのも困難。そういう意味で、映画化は期待します(笑)。『裏アバター』ぽい感じで。


 追記:すっかり忘れてましたが、作者はカタルーニャ人、これは数少ないカタルーニャ語で書かれた小説だそうです。読んでるあいだにそれを意識させる箇所は全くありません。