少し泥くさい

 サンティアーゴ・パハーレス『螺旋』読了。図書館本。

螺旋

螺旋


 「螺旋」は世界中で大ベストセラーとなり数々の文学賞を受けた壮大な大河シリーズ小説である。著者の身元は一切不明で、マドリードにある出版社はただ郵送されてくる原稿を本にして世に出し、印税を指定口座に送金してきた。シリーズ前作の発表から数年経過したが、世界中に待ち望まれているその続編が送られてこない。困り果てた出版社は何とか続編の原稿を入手すべく、わずかな手がかりから著者が住むと思われる辺鄙な村を特定し、編集者のダヴィッドを送り込む。いっぽうマドリードでは、ふとしたことから思いがけない人の手へ1冊の「螺旋」が渡っていき、奇跡のような出会いを生む…

 「螺旋」っていうタイトルが何ともボルヘス的というんでしょーか、硬質で抽象的なイメージがあって、目眩くまでにメタフィクショナルな構築物を思い描いてしまったのだが、予想よりずっと素朴な感じの物語だった。
 気が進まぬまま謎の著者探索にやってきた編集者ダヴィッドと、同行した妻や村の人々との間に起きるプチ悲喜劇も、エステーバンとアリシアの夫妻が生きた日々も、ジャンキーの青年フランに訪れる目覚めのような季節も、あらゆるエピソードがなんだかホンワカしていて、かなり拍子抜け。しかもくだんの作中作「螺旋」のストーリーや中身はあんまり詳しく登場するわけでもなく、どこがそこまで超ベストセラーになるほど面白いのかピンと来ない。そのため相対的に、書物の外側にある、上記のような人々の幸せや不運やささやかな望みに満ちた日常の暮らしこそが賞揚されているように感じられてくる。といって、じゃ「螺旋」はどうでもいいのかというと、「螺旋」が書かれ読まれたからこそあの人々はあのように生き、あのように出会ったのである…と考えると、やはりこれは書物の偉大さを描いた物語だとも言える。

 期待した雰囲気とはずいぶん違う作品であったけれど、たぶんそういうのに限って頼みもしないのに細部が記憶に残るんだ…ところでマルタの叔母さんはいつフランの正体に気づく(orもう気づいた)のか!?