終わりのない渦のなか

ジョン・フランクリン・バーディン『悪魔に食われろ青尾蠅』読了。
図書館本。

悪魔に食われろ青尾蠅 (Shoeisha・mystery)

悪魔に食われろ青尾蠅 (Shoeisha・mystery)


 この小説のことは、青柳いづみこさんのエッセイで知った。岩波書店のPR誌『図書』に連載されていた、音楽にかかわるミステリを紹介するエッセイで、現在は『六本指のゴルトベルク』という単行本にまとまっているはずである。ハープシコード奏者がヒロインという点が珍しい気がして印象に残った。青柳氏は自身も演奏家なので、この女主人公が病癒えて演奏を再開したのに、自分の演奏に違和感が残るというところの描写に注目した内容になっていたと思う。
 しかし、実際この作品を読んでみると、演奏に違和感どころか、何もかもがヘンなのである!…『白い恐怖』や『シャッター・アイランド』を連想しながら読んだ(と書いてもべつにネタバレにはならないわね)が、彼女のひずんだ知覚を精細に再現するその強烈さと執拗さは、ほかで読んだことのないような独特のもので、具体的にストーリーの中で起こったことなんかよりも、ここまでぎりぎりと書き記そうとした(しかも1948年という時代に)作者の姿勢のほうが何だか怖い気がしてくる。それからヒロインの父親が偏執的に書物を大事に扱うところなど(蒐集家ではなくて書店経営者だけど)、『荊の城』の「伯父さん」みたいで、ゴシック感が高まるのであった。


 タイトルになっているのはアメリカの有名な民謡だという"The Blue Tail Fly"。ニック・ケイヴが歌ってそうな曲("Up Jumped The Devil"を勝手に連想)を想像していたら、かなり違いました。この映像は楽しそうだけど、どことなく不気味。