見おろされる街

 「ご近所に、ぶきみな人形を窓に飾っているお家があるらしい」と母が聞き込んできた。なんでも、夜の暗い時間帯に健康ウォーキングをしていた某奥様が、ふとその家を見上げたところ、2階の窓ガラスごしに髪の長い人形が外を見おろしているのでギョッとしたという。場所を尋ねてみると、私も買い物帰りによく通っている道なのだ。しかしすぐ近くに、わたし好みの大型犬を飼っているお宅があって、いつもそちらに気を取られてしまうため(笑)全く気づかなかった。そもそも前庭がさほど広い家でもないので、視線を意識して上へ向けない限り、道路から2階の窓は視界に入らない。


 そこで改めてその道を通って確認してみた。問題の家の2階中央、玄関の真上にあたる窓にはカーテンが二重にかかっているのだが、その中ほどだけがひらいてあって、そこからなるほど褐色の長い髪をしたお人形らしきものがのぞいていた。だいたい腰から上ぐらいが窓枠の中に見えていて、小柄な人間ほどの寸法に見える。しかし、顔の色が「肌色」ではなくて、なんとなくブロンズぽい光沢のある濃い色をしているため、顔の表情などはよく判らないが、あまりリアルな顔作りがしてあるようにも見えない。マネキンなどに見かける、ざっと立体感だけがあって一色に塗りつぶしてある顔のようでもある。それより異様なのは真っ白な衣装を着ていることだが、これも洋服(ドレス)なのか、和装の白装束なのか、距離と視力が災いしてはっきり確認できなかった。夜間に下から街灯に照らされたところを見上げたら、日本の幽霊にありがちな白い着物に見えてさぞギョッとしただろう。
 あまりしげしげと見上げ続けるのも憚られるので&怖いので、それ以上くわしく確かめることは諦めた。ガングロ(<死語)っぽい顔色と、衣装がなんとなく不釣り合いな気もするが、これでリアルな肌色や顔立ちをしていたらそれはそれで一層ぶきみであろうから、不自然な顔で幸いだったとも言える。全体を見た感じとしては、いわゆる○○ドルフィーやフィギュア的な -- 髪や眼の色・衣装や小物のおしゃれな組合せをあれこれ楽しむ、凝った美しいヴィジュアルの -- お人形ジャンルに属するものでは無さそうに思えた。


 それにしても、わざわざカーテンを半開きにしてある様子からは、通行人に人形を見せるというよりも、「お人形に外の景色を見せてあげている」感じがありありとしていて、あのお家の住人がどういう動機であのお人形を所持しあの場所に飾っているのか、いらぬ妄想&憶測が湧いてくる。これ以上ながめてみたところで、なんの事情もわかるはずもないので、もう見ないようにしようと思うのに、それ以来その道を通るたびに、ついつい窓を見上げてしまう。お人形のほうも、「また通っている。ついつい見てしまうわ…」と思っていたりして。きゃー