『三月は深き紅の淵を』、『麦の海に沈む果実』に続いた一連の(?)作品をやっと読了。
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↑「含むブログ」の件数が物凄い(笑)…私などがこのうえ何をか語るべき。以下はあくまで美貌じゃなく備忘のために。
『黒と茶の幻想』はまるで2時間旅情サスペンスドラマのような人物設定で、詳しい人なら読み始めてすぐにあれこれキャスティングを思い浮かべることが出来そう(ただし船越英一郎の適役は無いかも)。日常のどこにでもいそうな30代後半らしき男女4人がとりとめなく交わす会話を読まされていくうちに、突如アッと驚くどんでん返しがあるのか?!…というとそうでもなく、ただ、彼らの過ぎ去った学生生活のうちに『麦の海に沈む果実』の主要人物だった個性の強い女性の記憶が、そこだけ不思議な異物のように突き刺さっているのみである。しかし、彼らの記憶が如何に不確かであるかはあらかじめ警告されており、いったい誰が見たこと語ることが真実なのか、当てにはならない。交わされる話題や口ぶりの日常臭さとは裏腹に、すべてが上っ面だけで嘘っぽく現実味を欠いた旅のあとで、彼らが戻っていく「日常」のどこまでがほんとうに「現実」なのか、ぼんやりした不安のなかに放り出されるような結末。
それに比べると、いかにも恩田陸らしい“少女ミステリ”と思える現実離れした『黄昏の百合の骨』のほうが、かえって強固な世界がそこに築かれた感じを与えてくれる。謎めいた洋館、怪しげな叔母たちと複雑な親族関係にある少年少女、不審な転落死…など道具立てからして、本作こそ佐々木丸美『崖の館』の由緒正しき正嫡たる“少女ミステリ”だろう。主人公は『麦の海に沈む果実』の学園を去って、かつての住居へ戻ってきた理瀬。『麦の…』で匂わされていた理瀬やヨハンらが属する暗い繋がりみたいなものが、ここにも顔をのぞかせるが、それが彼女をどこへ連れていくのかはまだ判らない。さらに続編だってありそう(もうあるのかしら?)。起こる事件と殺される人間の数、屋敷の正体を含めて、荒唐無稽にして残忍怪奇なのはこちらのほうのはずなのに、読み終わったあとに残る不穏な感じは『黒と茶の幻想』がまさっているかも。
考えてみれば、『三月は…』で予告されてはいなかった『黄昏の…』のほうが、より色濃く『三月は…』の雰囲気を残していて(=律儀に帰属している感じ、とでも言うか)、もともと『三月は…』に内包されていたはずの『黒と茶の幻想』が、予想を裏切るようなむしろ異色の作品になっているようにも思える。