裏でもいい仕事

 19日夜に放映されたが、サッカーW杯の日本vsオランダ戦の真ぁ裏番組になってしまったので、録画して20日に視聴。なぜよりによってこの夜に…と思わずつぶやいたら、やはり同じ事を思った方々が:

1972年に、「核抜き・本土並み」をうたって実現した沖縄返還。しかし、その裏で、「有事の核の再持ち込み」を認める「密約」が、日米首脳の間で取り交わされていた。その交渉の際、「密約は返還のための代償だ」として佐藤首相を説得し、密約の草案を作成したのが、首相の密使、若泉敬京都産業大学教授だった。若泉は、1994年に著作『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』でその秘密交渉を暴露し、2年後に亡くなった。若泉はなぜ国家機密を暴露したのか。

 若泉氏が自死を選ぶに至ったのは、本人の気質や重い病気を患ったことなど、いろんな要素が絡んだ結果だろうとは思う。しかし、政治家でも官僚でもない、あくまで民間人で一学者であった人物があまりにも重い結果を負うことになったのは痛ましい。


 若泉氏を最も苦しめたものはもちろん、沖縄のためと信じて実行した密約が、けっきょく何も良い結果をもたらさなかったのではないかという沖縄の人々に対する申しわけなさだったであろう。しかしそれだけでなく、判断力・洞察力を尽くして有利に運んだはずの交渉が、じつは最初から相手の思うツボにはまっただけであった*1ことを、後に当の交渉相手から知らされた時のショック、自らの外交に関する能力・見識に対する自負心・自尊心の傷つきかたも相当なものがあっただろう。また、自分が身を削るように苦悩した密約に関して、当時の佐藤首相がさほど重大なこととすら感じていなかったらしいことを、佐藤の遺した日記を閲覧して知り、憤りをにじませていたとの証言もあった。やはり佐藤に対しても「裏切られた」という悔しさをおぼえたに違いない。晩年に発表された、一連の顛末を記した著書に関する若泉氏の執念には、「事実を明らかにしておきたい」気持ちに加えて、そういう極めて人間的な感情がまつわりついているように思えた。
 日本政府は沖縄の米軍基地問題を通して、沖縄の人々だけでなく結果的に若泉氏に対しても、そういうひとりの人間が持ち合わせる当たりまえの感情を踏みにじり尊厳を傷つけたのだと思う。


 話は飛躍するけれども、ちょっと前の新聞で、商売や仕事上の用件で中国に滞在する台湾の民間人の多くが、台湾政府からの指示で情報収集に当たらされていたという話を読んだ。諜報活動が露見して中国当局に捕まった人もあり、帰国してから台湾政府に補償を求めてもなかなか実現されないという話だったと思う。もちろん「外交交渉の特使」と「スパイ」は全く違うし、若泉氏の内面的な苦悩と他国で投獄された人の苦しみもまた別物とは分かっているが、国家は時に身勝手な都合で民間人に理不尽な任務を負わせた末に見捨てるという点で、連想を誘われるものがあった。


全国で約2200万匹の犬や猫が飼われ、人間の子どもの数を大きく上回る「ペット大国」となっている日本。人間に比べて急速に高齢化が進むペットの「葬儀」をめぐって、いま大きな問題が起きている。今年4月、埼玉県飯能市の山林で100匹を超す犬や猫の遺骸を捨てた疑いで、ペット葬祭業を営む男が逮捕された。男は飼い主から火葬代金を受け取りながら、遺骸をそのまま捨てたと見られている。また、八王子市では住宅街に突然ペット霊園が建設され、悪臭などで住民と対立するなど、“最後の行き場”を巡るトラブルが相次いでいる。
トラブル続発の背景には、ペット葬祭業に対して許可や登録が一切必要なく、警察の捜査態勢も不十分な点が上げられている。さらに、ペットショップや繁殖業者など業界全体に対する規制や罰則が、先進国に比べて甘いという指摘もある。

 ひとつ救いのあるエピソードが添えられていた。1月に放映された同番組の「なぜ繰り返される ペットの悲劇」の回で紹介されていた、熊本市動物愛護センターでずっと引き取り手を待ち続けていたイノキくんちゃん*2が、ついに心優しい飼い主さんにめぐりあって、後輩犬ともども幸せな家庭生活をしている様子が紹介されたこと。成犬でしかもわりと体格が大きいゆえ、譲渡会に出てもほとんど誰にも関心すら示してもらえなかったイノキ。ほんとに性格の良さそうな犬、しかも私の好みのタイプのMIX犬だったので、いてもたってもいられない気持ちだった。どうかずっとずっと幸せに。

*1:米国にとって沖縄からの核引き上げはもともと織り込み済みであったにもかかわらず、あたかもそれが大幅な譲歩であるかのように思わせて、日本から全面的な基地使用という美味しい条件を引き出した

*2:21日追記:ビデオを見直していたら、なんとイノキのお腹にちっちゃな乳首が見え隠れしているような…イノキなんていう名前+あまりにも塩からい顔つきから、勝手に男の子だと思い込んでいたけど、どうやら女の子らしい。重ね重ねごめんね、イノキ。