好奇心が横切っていくUSA

向井万起男『謎の1セント硬貨 - 真実は細部に宿る in USA』(講談社)読了。

謎の1セント硬貨 真実は細部に宿るinUSA

謎の1セント硬貨 真実は細部に宿るinUSA

 図書館本。
 
 著者の向井万起男氏は、朝日新聞のスポーツ欄にアメリカ大リーグ野球に関するコラムを連載していて、野球にほとんど関心のない私ではあるが何となく毎回読んでいる。そのため、この著者のウンチク話を集めた本ならたぶん面白いだろうと思って、借りて読んでみた。


 ただしこの本は正確にはウンチク話というよりも、調べ物報告書というところだ。著者自身や妻の千秋さんがアメリカで見聞きした、他の人なら見過ごしてしまったかも知れないような小さな「?」を、持ち前の好奇心によりあちこちにEメールで問い合わせたりして追究していく面白さ。その小ネタ自体にも「へぇ〜」と思わせられるが*1、それよりも面白いのが、そうやって送られた問い合わせEメールにそこそこ返事が来るという事実だ。公的機関や企業サイトの広報担当者、あるいは個人HP開設者たちが、ただ好奇心から著者が書き送ったメールに、それぞれの立場から誠実に真剣に親切に(多くの場合なんの得にもならないのに)返信してくる様子に、なにかしみじみと(単純だけど(--;)ゞ)人と人の交流のうるわしさ、アメリカ人のオープンでフランクな良さなどを感じて、読後ちょっとだけ明るい気持ちがしてくる。もちろん、あまり感心できない反応(あるいは無反応)もたくさんあったのだろうけど。*2


 千秋さんが仕事のために住んでいたテキサスを足場に、けっこう遠いところまで気軽にドライブ旅行に出かける著者夫妻。その軽快なフットワークもなかなかチャーミングである。と同時に、映画で何度も見かけたアメリカ合衆国のロードサイドの、ガソリンスタンドと小さな雑貨店ぐらいしかない寂れた町と荒涼とした風景が、リアルに眼に浮かんでくる。この本の中には、著者が何度も繰り返し訪ねる土地のことも出てくるが、一度通り過ぎればもう二度と出会うこともできない場所や人の話も書かれている。
 「エピローグ」に出てくる、テキサス州ドライデンにあったガソリンスタンドの女性の話は、もうほんとにこれで終わりなんだろうか、意外な後日談に続いたりしないんだろうか…と、つい期待というか想像してしまう。

*1:私がとくに面白かったのは、アリゾナ州インディアナ州サマータイム問題を取り上げた第11章「勝手にしやがれ」。アメリカを象徴するような話だ…

*2:付け加えると、ここに書かれている出来事は90年代にさかのぼるものが多くて、Eメールが主役なのはそのせいもあるだろう。FacebookTwitter全盛の現在なら、問い合わせ方や情報がとびこんでくる方法にしてもまた違った展開になっていたかもしれない。