ホテル・ルワンダ


 ルワンダ関係のニュースや本を見たり読んだりするたびに一生懸命にそれまでの経緯など含めて反芻するのに、何度聞いてもどっちがツチでどっちがフツだったかわけわからなくなってしまう。この映画を見たらきっちりおぼえられるかというと、そうでもない。だってツチもフツも外見には全然違いが無くて、普通に混じって生活していたしそういうふうに描かれてるから(映画ではフツの民兵が揃いの柄物のシャツを身に着けていて、視覚的に区別がされてるのはそこぐらい)。

 いよいよ敵方が迫ってきてもう逃れられそうになくなった際に、どうやって子供を殺して自分(親)も死ぬかの算段をするという、『ザ・ロード』そっくりの場面が出てきて、他にも残忍な或いは緊迫した場面はいくらでもあったのだけど、そこの場面で思いがけず最も戦慄を覚えた。レイプされたり鉈で惨殺されたりするよりは先に死を選ぶように説得するのは父親で、それに無言で激しく抵抗を示すのは母親だというところは、『ザ・ロード』と逆さまだったけど。これが一度ならず地球のあちこちで既に繰り返された実話だ。


 欲望のままに横暴にふるまう政府軍のビジムング将軍、誠実だが情けないほどに無力な立場の平和維持軍のオリヴァー大佐(ニック・ノルティ)、それぞれの醜さ、情けなさが感じられて現実味があった。誰もかっこよくないなかで、赤十字の女性スタッフ、アーチャーさんの神々しさが光る。きっと実際のルセサバギナ氏をはじめ、多くの現地の人たちの眼にもそういうふうに映っていたのだろう。私の好きなドン・チードルがこの映画に出てくれてほんとに良かったわ。でなければ、たぶん興味を持つことも観ることもなかっただろうし。