淡々として残酷

ブラックブック [DVD]

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 ナチス占領下のオランダで、安全な地域への脱出を試みて失敗し家族全員を失ったユダヤ女性が、レジスタンスのグループに協力してナチスの将校のもとへ潜入する。

 こういう話なのだから当然だけど、いったい誰が本当の裏切り者なのか、かなり最後までハラハラする。と同時に、そんな人間の狡さ卑しさや、敵であっても家族を亡くしたという心情において通い合うものがあることなど、個人サイズのあれこれに視線が集中してしまって、つい「そもそもこんな状況になったのはなぜ?」という戦争そのものに対する疑問はどっかへ行ってしまう。そんな自分に時々気づいてイライラするはめに。
 幕開けからして、ヒロインはキリスト教徒の家庭にかくまわれているのだけど、「キリストを受け容れなかったからユダヤ人はこんなめに遭うんだぞ」とその家の主人から説教を垂れられ、何も言い返せない。ユダヤ人であるがゆえに理不尽に迫害されているという大前提を、とりあえず甘んじて受け容れなければ生き残れない、そういう場所から話がスタートするので、そのままずっと地を這うような視点で戦時下をくぐりぬけることになる。戦争全体の大きな状況など最初からこの映画は描くつもりがない。実話に基づくという、あくまで個人が生きのび個人として落とし前をつけた戦争の物語。

 ヒロインの容姿がすっきりしてわりと好きなタイプ、画面も全体に抑制された綺麗な感じなのに、ところどころで異様に派手な殺され方をする人物が出てくるところはやはりヴァーホーヴェンだからなのか(とくに老弁護士の妻の鮮血ホラーな死に様には思わず笑ってしまった)。レジスタンスグループが秘かに人を運ぶための細工を施した棺とか、チョコレートとか、小道具が生かされているのも面白かった。