彼女の苦しみはどこへ?

 (ちょっと後戻りして、実際に読み終えた日付で記録。)

氷


ずっと前に読んだ「輝く草地」しか知らないまま、気にはなっていたカヴァン。この『氷』は幻の傑作だそうだけど、復刊されるまで存在すら知りませんでした。


 突然動き出した巨大な氷に囲まれ、不可解な破滅の淵にたたされたこの世界。語り手がなんとかして救おうと奔走するその対象は、透き通るような白い肌と銀の髪をもつアルビノの少女である。幼い頃から虐待の被害者であったため、極端に感じやすく常に怯えていて抑圧者に抵抗する力もない存在として描かれる。でも、そう言いながら彼女を追い続ける語り手の視線じたいが、残酷で歪んだ欲望に動かされている(と、自身でも認識している)。強引に彼女を束縛しつづける謎の“長官”に対し反感を抱き続けるが、じつはその“長官”も語り手の鏡像なのではないかという疑念すら繰り返しほのめかされる。
 少女に対する彼のあまりにも激しい執着が何に起因するのかは判然としないまま、語り手はもはや避けられない世界の終わりを前に、ついに彼女を取り戻す。こういうのをセカイ系って言うの(?)たとえ世界が滅びても語り手はけっこう満足そうだけど、少女の苦しみはいくらかでも救われたのか。よくわからない。

 独裁国家の強大な権力者に苛まれる少女という設定から、なんとなく "V for Vendetta"のナタリー・ポートマンを連想(といっても実はくだんの映画みてない。急に観たくなってきた)。ではヒューゴ・ウィーヴィングは誰なんでしょう…