その安息はいけない

 どっかのBS局で放映されたのを録画視聴。


永遠のこどもたち [DVD]

永遠のこどもたち [DVD]


 筋書き上の要素や絵柄に、やはり先日見た『ダークネス』と共通するものが幾つか見受けられたので、こりゃ少々品下れる感のある『ダークネス』が本作をパクったものなのか…と思ったけど、製作年をみたら『永遠のこどもたち』のほうが5年も新しかったのね。
 恵まれない子供たちが共同生活する施設で何か恐ろしいことが…ちゅう設定は、それ自体現代の日本で映画にしようと思ったらひと悶着ひきおこしそうなデリケートさを感じるが、スペイン方面では受け容れられやすいのでしょうか。


 同じような設定を用いつつも、さすがというか、古い建物と庭、インテリアの落ち着いた美しさ、廃燈台とその足下に洞窟のある海辺の雰囲気、主人公夫妻を含む全体の抑えめ演技(だけでなく、衣装とか存在感そのものがあっさりしててイヤに気にならない感じ)などにより、安心して観られる、しかしまぎれもなくこれはホラー。
 私が特に気に入ったのは、行方をくらました息子を求めてヒロインが、手がかりとなるドアノブ(マドレーヌの型みたいに貝殻風の装飾がついてる)を持って家じゅうを探し回る場面で、さまざまな形の、でも全部それじゃないドアノブがつぎつぎに映し出されるところの焦燥感とか。スペイン版「だるまさんがころんだ」*1みたいなお遊戯で呼び出される子供たちの霊が、ヒロインが振り向くたびに一人ずつ増えている“お約束”どおりだけどやっぱりゾクゾクする場面とか。
 “トマスの部屋”でついに発見した息子を抱きあげてヒロインが「きつく眼を閉じて、ママと2人きりだと想像して」と語りかける場面でカメラがぐるぐる2人の周りを回るところは(螺旋状の動き→出産を連想)、なんとか2人で再生しようという必死の思いが表現されているような迫力を感じた。そして生と死の世界を繋ぎ隔てる、異様に(ピラネージかよ?と思うほど)長い地下室への階段のシルエットが突然色あせる場面も印象的。


 最後にヒロインを待ち受けている真相は残酷すぎ、そこからの救いはこの結末しかないのかもしれないが、それにしてもラストショットの旦那の微笑みはちと納得できん! 深夜に息子がうなされるたびに「今晩は僕が起きて見に行く番だ」って言いながら結局アンタが起きないから毎回奥さんが子供を寝かしつけに行ってたじゃないの。旦那がもう少し協力的だったら奥さんも落ち着いていられて、あの日のあの悲劇はひょっとして避けられたかも知れない。「2日間だけひとりにして」と奥さんに言われて車で家を出て行く場面の旦那は、この結末を覚悟してるみたいな一見悲愴顔だったけど、むしろホッとしてるんじゃないの面倒な奥さんと子供から解放されて?と邪推したくなります。そのへんとか「母親幻想」的な陳腐さが若干気に障るとはいえ、いろんな伏線やアイテムが収まるべきところへきれいに回収される終わりかたは私の好きなタイプ。


 全体に落ち着いていて気にならないとさっき書いたけど、その意味では霊媒師役のジェラルディン・チャップリンすら、あまりにもピッタリはまっているので自然すぎて気にならないといえるほどなのだけど、その霊媒師を連れてくる胡散臭い心理学者(?)役のこの人が、今回いちばん「気になる」役者だったかもしれません、ヴィジュアル的に。

 

 *公式サイトが今のところまだ残ってる→映画『永遠のこどもたち』公式サイト

*1:言うまでもないが関西では「ぼんさんがへをこいた」である