端正な奇譚集

  • 勝山海百合『十七歳の湯夫人』

十七歳の湯夫人【マダム・タン】 (MF文庫 ダ・ヴィンチ か 1-2)

十七歳の湯夫人【マダム・タン】 (MF文庫 ダ・ヴィンチ か 1-2)

 もう六年近く前になるが、勝山海百合さんの作品で初めて読んだのは「軍馬の帰還」、それ以来、馬と言えばあのお話が自動的によみがえり、涙。それがたとえ《馬術の法華津選手、ロンドン五輪出場決定》のテレビニュースであっても、馬、といえば「軍馬の帰還」。それくらい、大切なお話となった。

 で、この文庫本も(はっきり言って表紙画が好みじゃないですが)一度ほかの作品も読んでみたいと思って手に取った。収録作は、いずれも端正で落ち着いた文章で、程度の差はあれ怪異な出来事を、巧みに語るもので、安心してゆるゆると読むことができる。表題作、登場まもなくから魔性のものであることがほのめかされている少女のほうではなく、転がり込まれたほうの湯夫人がタイトルになっているのはなぜだろう…という疑問がぱたんっと解かれるあたりのドキドキ感はうまいな、と思った。

 その他、支那趣味に彩られた短篇も面白いものが多かったけれども、それよりも、中央〜西アジアとおぼしけれど何処ともしれない荒涼とした場所を舞台にした邂逅と別れの物語「琥珀海岸」「みぎわの面影」が気に入った。とくに後者の、危険な土地を横断した長い苛酷な旅を慣わしとする民の物語は、このところ続けていくつか読んだ椎名誠の近未来(?)小説に出てくる殺伐とした世界を連想させ、彼らはどこかですれ違っているのでは…とふと錯覚しそうになるのだった。


 著者には長篇作品もあるらしいけれど、どんな感じなのかな。

玉工乙女

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さざなみの国

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