ペンドラム老嬢はマギー・スミスで(他にいないのか)

 H.R.ウェイクフィールド『ゴースト・ハント』(創元推理文庫)読了。

ゴースト・ハント (創元推理文庫)

ゴースト・ハント (創元推理文庫)


 だいたい“お屋敷もの”は好きなほうで、なかでも「奇妙な空間、不自然な間取り」の怖さには心惹かれるものがある。この短編集にも、いわくつきの建物や部屋にまつわるお話が幾つも収められており、「通路(アレイ)」にはまさに奇妙な小部屋が登場するのだけど、それにまつわるエピソード部分が陰惨でちょっと辛い。「赤い館」は、言い伝えの部分に関しては似たようなものではあるが、ともかくも語り手一家はそこから危うい所で脱出に成功するハッピーエンド(?)になっていて気持ちが救われる。これは巻頭ではなくてもうちょっと後に配置してホッとさせてほしかった(笑)。


 チェスにまつわる「ポーナル教授の見損じ」、「悲哀の湖(うみ)」など、語り手自身が最初から妄執に取り憑かれたようすで、言っていることがいわゆる“信用できない”タイプの作品は、きりきりと神経が疲れる感じでパトリック・マグラァを連想させる。「不死鳥」「蜂の死」も加えると、案外、古典的なお屋敷怪談だけでなく、このような心理ホラーの系統もこの作者の主要ジャンルのひとつなのかもしれない。



 そんななかで、とくに私が気に入った作品を記しておくと、

  • アーサー・マッケン風のシチュエーションを、あんなに曖昧模糊(笑)とではなく鮮やかな印象で描いた「最初の一束」
  • 契約書や印刷にまで怪異が及ぶという瀟洒な出版ホラー「“彼の者、詩人(うたびと)なれば…”」
  • 登場人物のキャラが強烈(特に牧師夫人の配役は誰にしよう…と迷う)な「死の勝利