大胆さと繊細さと

 自分が手編みを一生懸命やっていた頃、愛読していた『毛糸だま』誌上で初めて下田直子さんの作品を目にした頃は、その過剰なまでのデコラティヴさにちょっとついていけなくて、決して好きなデザインだとは思わなかったものだ。ただ、とにかく個性的で独特のデザインは、断り書きが無くても下田直子デザインとすぐわかるような異彩を放っていて、無視できないものであった。

 当時は奇矯なほどに思えたその装飾的な作品も、東欧の刺繍をはじめとするさまざまなエスニック手芸がずいぶん紹介されてきたここ10年ほどを経た眼で見なおすと、あぁついに時代が下田直子に追いつきつつあるのだ、という感慨(?)をおぼえた。


 作品の複雑な賑やかさとは対照的に、あの頃の誌面の下田作品は、いつもひじょうにきっちりと仕上げられたうえ端正なスタイリングで撮影されすっきりとしたレイアウトで掲載されていて、几帳面な印象だった。今回、じかに目の前にディスプレイされた数多くの作品は、やっぱりどれも驚くほど細やかに美しい手ぎわで裁ち縫い編み上げ繍い取られていて、着想や工夫をじっさいに形にする確かな技術と気概がすみずみにまではりつめたような、ハンサムな容姿のものばかり。
 少しでも手づくりを趣味とする人であれば、たとえ下田直子のデザインが自分の好みにピッタリではなくても、自分もまた何か作りたい、という意欲は間違いなくかき立てられるような展覧会だった。