懲りもせず不似合いな本を読むpart2

 うっかり(笑)『樒/榁』を先に読んでしまったのですが、こちらも面白く読みました。作中出てくる狷介なるフランス文学者のモデルはあの人+あの人÷2、さらにあの人風味をトッピングなのかしらとか思ったりして。
 本格ミステリーに対する批評だとかオマージュだとかいう点についてはそっち方面の素養が無いのでなんとも言えず、すなわちおそらくこれらの作品についてほとんど何も言えないことになるのだけど、なぜかこの人の作品は部外者(!)が読んでも味気なさとは無縁、ゆかしさが漂う。あの短い『樒/榁』ですらそうだったけど、読み終えてから「あ、そういえばアレはどうなったんだろう」というような宿題(謎解きという意味ではなく)がたくさん残った感じがする*1
 両作とも、〈ある事件を十数年後に別の角度から振り返ってみたら〉とか、〈1つの状況を別の視点から描き直してみたら〉というような設定になっているが、そういう形式が生み出す「事実らしきもの」の揺れ幅だけでなく、盛り込まれた要素の余りぐあいがなんとなく光輪のように話の外側へにじみだして、妙な拡がりを感じる。こういう感じは他の作家ではあまり味わうことがないので少し不思議です。
 こっちの人とは違って殊能氏の文章はとても自然で読みやすく、オトナだな〜って思います。

*1:繰り返すようですが、ミステリーに詳しい読者ならいちいち腑に落ちるはずの事柄が、私には意味不明なオマケに見えるだけなのかもしれません