暑すぎてとり殺す気力もない

 ゆうべはお友達に誘ってもらって久しぶりに劇場で鑑賞。お盆まっ最中のせいですか、レディースデイだというのに客席はかなり寒いありさまでした。


 原作(三遊亭円朝の『真景累ヶ淵』)に比べると、新吉(映画では尾上菊之助)があまり悪い男には描かれていないので、そのぶん陰惨さは薄れて哀れさが増すというぐあい。この人はお顔もちょっと可愛らしいし。
 怨念と妄執がこの世の理屈の埒を超えて猛威をふるうさまを描くのなら、誰彼見さかいなく被害に遭うほうが説得力がある(『リング』はある意味そうだったはず)。最後まで無傷なあの人の存在がちょっと納得いかなかった。


 災厄の中心である女主人公(黒木瞳)は富本節のお師匠さんで、豊志賀という名前は名取りというのか流派の名前らしい。クレジットを見たら、お弟子さんたちの役で「富本」の付いた名前の人が何人も出ていた。富本節という名称すらほとんど聞いたことがなかったので、そういう人たちがおられるんだーと今さらながら驚く。
 盲目の鍼医&高利貸し宗悦(導入部にちょこっとしか出てこないけど)が、「この人しかない」と言いたくなる六平直政だったので拍手。悪女お賤(瀬戸朝香)の着物と帯が欲しい(笑)。
 映像と音がきれいで、鳥の声や虫の音がここ、というところにさりげなく配されていて季節感を盛り上げるのも日本画っぽくて良い。私は累ヶ淵といういわくつきの場所の怖さをもう少し視覚的に詳しく描いて欲しかったので、その点が少し物足りませんでした。


 長らく品切れだった岩波文庫の原作本が、版を改めて再刊された。ずいぶん読みやすくなったので(そのかわり文字面のおどろおどろしさは減じたようですが)、読み直してみたい。