腕力仕事

笙野頼子『幽界森娘異聞』(講談社文庫)読了。


 現実の薄皮を剥ぐように・・といったらキレイすぎるか、豆乳の表面から引き上げられて中空でひらひらしている湯葉のような(笑)森茉莉の世界を、再び地面から生えた現実という背景のほうへぐいぐい押し戻していくような感じ。でも、森の言葉のほうはすでに変容しきっているので、現実へ嵌めこもうとしても元に戻るわけではない。そこへ更に作者(笙野)自身の過去や現在まで交互に絡み合うように顔を出してきて、クレイジー・キルト*1みたいなものが出来上がっていく。

 特異な環境ではぐくまれた美意識に沿って思うまま書いたお嬢さん作家、という印象で見てしまいがちな森茉莉に、書くこと=生きることとなるしかなかった「文士」を見いだし、共感していくところが新鮮な驚き。『記憶の絵』も読まないとね・・と書店で手にとってしばし迷い、帰宅してよく調べたらすでに「ちくま文庫」版を持ってたのが大ショック!!ちゃんと読み直しますm(._.)m

 作品自体ももちろんだが、文庫版あとがき&解説も読み甲斐あり。前にも書いたとおりずいぶん以前に挫折していた笙野本、(解説の佐藤亜紀にノセられて)もう少しかじりついてみないと損のような気になった。特に『水晶内制度』と『金毘羅』はなんとか読みたいものです。それにしても私が読んだ&持っている笙野本(ちょっと前のもの)は、ほとんどが現時点では品切れ入手不可みたい。版元さんがんばれー。

*1:参考:あれこれ