読むほどに汚れていきそうな

 松浦寿輝『花腐し』(講談社文庫) 読了。

 「ひたひたと」「花腐し」の2編収録。どちらも似たような話で、東京の低く湿って暗い地帯を疲れた中年男が彷徨ううちに、過去の女の幻影を見たり、父でもあり自分でもあるような幻影を見たりする。場末の迷路みたいな街路にぐるぐると入りこんでしまって、そこで人生の時間までが巻戻ったり結び直されたりする感じは少し面白いけれど、じとじとした舞台設定はこっちまで体調悪くなりそうで苦手だし、全体として道具立てなんかが「ありがち」な印象・・。表題作の最後で、亡くなった恋人の亡霊?が出るところはとくに余分な感じがした。

 この人の本は『もののたはむれ』とこれで2冊目だけど、『もののたはむれ』収録作みたいな短めのの方が私には楽しめそう。長篇も書いている作家だが、今回みたいな感じでしかも長いのだとすると、勘弁して欲しいという気がした。この人の本は、表紙がどれもなかなかステキ。