それはあなた[の身体]のせい

現代思想2011年2月号 うつ病新論 双極II型のメタサイコロジー

現代思想2011年2月号 うつ病新論 双極II型のメタサイコロジー

 
 id:KAYUKAWAさんも執筆されているということで読んでみる。自分では「うつ(病)」発症を疑うほどの異変を自覚したことはないものの、子供のころから(文学的な表現でいうところの)メランコリーな性格ではあると思っているので、広い意味で「鬱」ということに関心はある。その程度の関心で読み通せる内容ではなさそうだけど。
 ということで、まだ読んだのは粥川さんの「バイオ化する社会 うつ病とその治療を例として」だけです。


 うつ病の発症にかかわる遺伝子を特定する研究が進んでいること、抗うつ剤が本当に有効なのか疑問を抱かせるような研究結果も示されているにもかかわらず、依然として大量の抗うつ剤が使用されていることなど、うつ病の発症をあくまでも“個人[の身体]のなかで起きる不具合”に切り詰めてしまうような傾向が、ここでは「バイオ化」と呼ばれている…<<勝手に自分語で言い換えるとそんな感じ。
 アメリカでプロザックが流行っている(?)という話をニュースで聞いたのはいつごろだったかしらん、日本ではまだ「うつ病」もいまほど一般に理解されていなくて一部の不運な人がかかる特殊な病気のように思われていた頃ではないかと思うけれど、「うつ」は脳の中の化学現象なんだから薬で簡単に治るんですよ、と言われたみたいで、私などはむしろなんとなくホッとした記憶がある。しかし実際には、

ある人がうつ病になったり、治りにくかったりすることには、その人の所得や地位など社会的因子が強く関係している

ことも既に研究で明らかにされているそうである。そのようなうつ病発症に関する「社会的因子」が見過ごされてしまうのではないかという危惧が表明されている。


 面白かったのは、抗うつ剤の効果を測るための比較研究の結果、≪抗うつ剤の影響の75%は、プラセボによってつくり出されたものだとわかった≫というところ、さらに≪患者が、自分が飲んでいるものがプラセボであるとわかっている場合でも、ある程度の治療効果が見られることがある≫という話。じっさいの治療/実験がどのような手順や雰囲気で行われるのか知らないが、たとえプラセボを(しかも薄々それと知りながら)飲んでいるとしても、たとえば月1回医者と面接して「えーと、お薬飲まれて、その後どんなぐあいですか」とかなんとか、ある程度の会話があったりするのではないだろうか。そしてその、とにかく患者として遇され自分の病気・症状について誰かから関心を持たれ尋ねられたり答えたりするという体験が、形式だけであっても何か「治療」っぽい効果を生む場合もあるんじゃないかと思う。仮に、相手の顔も見えない窓口の、小さな扉から無言で薬を突き出されるだけで、医療者との会話も全く無し、という条件で薬を飲み比べてみたらどうなるのか、ちょっと興味がある。


自殺多発…自衛隊の闇 沈黙を破った遺族の闘い(55分枠)
放送 : 1月30日(日)24:50〜
ナレーター : 小山茉美
制作 : 日本テレビ
再放送 : 2月6日(日)11:00〜BS日テレ

2004年、海上自衛隊横須賀基地に勤務する隊員(21)が電車に飛び込み自殺。「お前だけは絶対に呪い殺してやる」ホームに残された遺書には、先輩隊員への告発が、怨みの文字と共に綴られていた。翌年、航空自衛隊浜松基地の隊員(29)は、生まれたばかりの子供を遺して自殺。彼は10年間、上官から執拗で理不尽な命令を受け続けていたという。両事件とも遺族は「いじめが自殺の原因」として提訴。しかし、自衛隊はこれを認めていない…。今、自衛隊員の自殺が相次いでいる。1995年に49人だった自殺者は2005年には過去最多の101人に増加。(09年度は86人)約5年に及ぶ海上自衛隊員の裁判は2011年1月26日に判決が下る。自衛隊という巨大な国家組織に立ち向かう遺族たちの闘いを追った。

  関係ない話に見えるかもしれないが、たまたま今朝テレビでみたこの番組も、いわば「社会的殺人」*1が、外部の要因との関わりは定かでない「個人の自殺」であるとして片づけられてしまう残酷な現実を生々しく報じたものだった。死者は切り捨てられ、そこから大慌てで身をもぎ離すように逃走する私たちの社会には、死を強いた原因であるはずの何かのほうが、どんどん蓄積されていく。

*1:もちろん、うつによる自殺がいわば「社会的殺人」であるという度合をはるかに超えて、この番組で扱われたケースは「リンチ殺人」そのものに近い