アナザー・ヒヌマ・マーダー・ケース

津原泰水『少年トレチア』(集英社文庫) 読了。


 これもまた、あらすじを書けないような小説。それにしても何でしょうこの終末部の爆走SFぶりは? 思いがけない展開と、昨今の耐震偽装マンション問題にまで思いを致させてしまう予見性の高さ(笑)に、月並みですが驚くしかありません。読書力の衰えが激しい最近の私ですが、夢中で最後まで読みました。あいかわらず津原さんの文章はほんとに身を任せ甲斐(^^;)があるというか、気持ちよく連れ回して下さるので安心です。ただし繰り広げられる光景はかなりキツく、愛犬猫家としてはちょっと腹をくくる必要あり(笑)


 先にパラパラ読みしたところ、ヒヌマ(緋沼)でオウジ(旺児)、そしてコンガラ(矜羯羅)&セイタカ(制咤迦)ならぬマカラ(摩伽羅)&ヴィヤーラカ(??)。と来たので、ムムこれは・・と思って読み進めましたが、何せ『虚無への供物』がどんな話だったか−−私にしては珍しく数回読み返しているにもかかわらず!!−−スッキリ忘れている*1ので、けっきょく『虚無』とどう関係あったのか/無かったのかよくわからず。そんなことに気を取られながら読むのが間違っていたのか。無理やり言うならば、大量死を前にして犯人探しがどうでもよくなる(反)ミステリ、という点で似てます?

 iMacの(ちょうど作中1999年当時の)カラーヴァリエーションと五行説の関係を思い描く人もおられるようなので*2、鋭い人は他にもいろいろ面白いものを見つけられるのかもしれません。私は、死んでしまった人と生き残った人のどこが運命を分けたのかとか考えてみたい気がします。最後のほうでいきなり出てきて死なない人は、またの出番があるのかしらとか。作中出てくる、「待ってろ、綾辻。」な未完の大作もとても読みたくて気になります。結局、推敲ばかりしてダラダラ書いていた人は書き終えずに死んでしまい、「私が著者だ」と言い張ってしまう人が生き残るというのはなにかとても意味深長です。そういえば、この前に読んだ『ペニス』にも、行き詰まりみたいな小説を書いている人物が出てきた。


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 それと、私は萩尾望都の絵を嫌いではないけれど、やっぱり装画は単行本の七戸優のほうが好きでした。文庫版もできればあの感じで作ってほしかったなと勝手ながら思いますです。

*1:そんなわけで『虚無』は何度目かの再読中。それから大慌てでこちらは初読の「ピカルディの薔薇」も。

*2:注:リンク先は『少年トレチア』について書かれているものではありません