中村 融編 / 山岸 真編『20世紀SF (5) 1980年代 冬のマーケット』(河出文庫)読了。
【収録作品一覧】 冬のマーケット ウィリアム・ギブスン 美と崇高 ブルース・スターリング 宇宙の恍惚 ルーディ・ラッカー 肥育園 オースン・スコット・カード 姉妹たち グレッグ・ベア ほうれん草の最期 スタン・ドライヤー 系統発生 ポール・ディ・フィリポ やさしき誘惑 マーク・スティーグラー リアルト・ホテルで コニー・ウィリス 調停者 ガードナー・ドゾワ 世界の広さ イアン・ワトスン 征たれざる国 ジェフ・ライマン
じつはスターリングが編んだアンソロジー『ミラーシェード』とグレッグ・ベア『ブラッド・ミュージック』は結構リアルタイムに近い時期に読んでいて、後者はわりと楽しく読んだ記憶があるものの、前者は辛い思い出(笑)しかなく、以後サイバーパンクなるものに対しては「ダメ」感しか抱けない身体となっておりました(といってもどちらの中身もロクに憶えていない)。今回はその記憶に怯えつつ、80年代へ回帰〜。
結果はといえば、私の思い描くサイバーパンク像に非常に近い「冬のマーケット」は、それほど苦しくなく読めた(私もオトナになったわ..)けれどやはりこのテの世界は好きじゃないと再確認。スターリングのはテクノロジーが極端に発達するとギャラントリーや文芸復興するという話ですか(誤読)。あまりSFらしくすら感じられず意外だったが、印象には残りそう。
ちょっと非モテな感じの男女の出会いから始まって思わぬ壮大な話に発展する「やさしき誘惑」は、ナノテクが実用化されるとなぜそういうふうに人間が"拡張"されるのか私の頭では理解できない( ̄∀ ̄;)のが残念ですが、そこまで行くのかと興味深いもの。こういうのをバカSFとは言わないのかな?バカといえば一番お馬鹿な「宇宙の恍惚」、好みではないが急転直下のエンディングがいい。コニー・ウィリスのドタバタは、残念ながらやはり長編のなかのくすぐり要素としてのみ読みたい気がしました。
そもそもの目当てだったジェフ・ライマン「征たれざる国」は、収録作中でもっとも異形の世界を造り出している。夜読んだら『憑かれた鏡』よりもはるかに怖かった。やはり向こうから観た“アジア”なのか・・・という嫌な感じは少しあるのだけど。下敷きとされている史実が明かされていることもあってイメージは鮮烈で、生死の境がぼやけてヒロインの視界が変容していくところなど非常に生々しく感じられた。この人のねばり強い描写は、長編(以前に読んだ『夢の終わりに・・・』)ではなかなか体力消耗させられたので、このくらいの長さがちょうど読みやすい。
ほとんどが面白く読める作品だったので、これの前後、70年代編と90年代編はできれば読みたいものと思う。