手に余りました

ローレンス・ノーフォーク『ジョン・ランプリエールの辞書 』(上・下/創元推理文庫)読了。(上巻読了の時点で書き留めた小ネタはこちら)

ジョン・ランプリエールの辞書 (上) (創元推理文庫)

ジョン・ランプリエールの辞書 (上) (創元推理文庫)

ジョン・ランプリエールの辞書 (下) (創元推理文庫)

ジョン・ランプリエールの辞書 (下) (創元推理文庫)

 ちょっと大風呂敷が広げられすぎで私にとってはしんどい感が残りました(--;)ゞ。氾濫する固有名詞の大群は、もちろんギリシャ神話だとかヨーロッパ史に詳しい読者なら違った印象を受けるだろうが、ほとんど何も知らず圧倒されてお終いでも結局それで構わないような感じ。

 強度の近視から来る幻視、といえば私自身の経験からなんとなく想像はつく(マンディアルグの作品の幻視性も、彼の近視から生み出されたのではないかという話を読んだ憶えが)。でも、いかにもそれらしき微細で変幻するヴィジョンがこの小説にいっぱい出てくるかというとそうでもなく、むしろヨーロッパ世界の時間と空間を一気に俯瞰しようとするような描写がところどころに出てきて*1、そちらのダイナミックさの方が印象に残る。『未来世紀ブラジル』を思わせる東インド会社の巨大社屋がちらっと出てくるのも魅惑的。他にも面白そうなネタはいっぱい出てきたはずなのに、あれもこれも食い散らかされっぱなしという印象。いや、例によって私が忘れてる(回収し損ねている)だけかもしれませんが。


 読み進めるのが苦しかったのは、登場人物たちがどれもとらえどころが無かったせいもある。主人公も、その振る舞いがawkwardな感じなのは近視だけのせいなのか、それとも性格もオドオドしてるのかと思っていたら、突然短気な行動に出てみたり、姿形だけでなく人物像そのものがなかなか頭の中に描きづらかった。ランプリエールを引きずり回すセプティマスにしても、いったいどういう人物なのか判るような材料が無く、いきなり訪ねてきたセプティマスを主人公はなぜそんなに信用してすぐに親しくなるのか理解に苦しんだ。あげく、やっぱり××でしたと言われても驚きが今ひとつ薄いし、ラストシーンで急にセンチメンタルなセプティマス視点になるのも唐突すぎ。全員が書き割り或いは自動人形の如きものだったという扱いの方が、むしろ腑に落ちたように思う。

*1:下巻p.90辺りや「ラ・ロシェル」の章冒頭、“風”や“高気圧”が主語の件り