ひきつづき、地獄

ヒトラー~最期の12日間~スタンダード・エディション [DVD]

ヒトラー~最期の12日間~スタンダード・エディション [DVD]

Wikipediaページに、英語版公式サイトへのリンクも有り)

 誰も想像し得なかった(?)ブルーノ・ガンツのそっくりさんぶりが話題になったのと、日本語タイトルのせいもあって、なんとなく「ヒトラーが主人公」と思い込んでいたけれど、実際にはヒトラーに人生を狂わされた周囲の人々のほうを描いている感が強い。映画の寸としても、ヒトラーが亡くなって以降が予想より長かった。よく言われるように、戦争は止めかたが難しい。最高指揮官がむちゃくちゃ言いっぱなしで無責任に自殺した後、未だに総統の呪縛が解けない者、なんとか事態を合理的に解決しようとする者、自暴自棄になる者、さまざまな姿が露わになる。しかし、どの立場もどの人格も、濃淡はあれどけっきょく同じ狂気と麻痺に包まれているところが怖い。
 飛び抜けて狂っているのがゲッベルス夫妻で、わざわざ地下の司令部に呼び寄せた子供たちを夫人自らの手で1人残らず薬殺するシーンは見ていてこちらも息苦しくなった。とは言うものの、もしあの子たちが残されたら戦後どのような運命だったかと想像すると、あの選択をしなかった場合も同じくらい残酷だったかもという気がした。*1 *2

 ストーリーはヒトラーの秘書を務めていた女性の視点に基づいており、彼女はソ連軍の包囲を辛くもくぐり抜けて生き残った。映画の完成するわずか前に亡くなったが、晩年のインタビューフィルムが冒頭と最後に付け加えられている。悪魔の手先になっていることに無自覚だった自分を責め悔やむ、この発言がなければ、ナチス関係者の「人間的」な面をとりあげたこのような映画は容認されなかったかもしれない。その反面、当事者の存命中にはやはりちょっと困難だったろうなとも思われ、微妙な所で成立している作品。


 ところで。登場人物の中で、善悪の判断というかモラル抜きに(笑)私のハートをとらえたのがヴィルヘルム・モーンケ少将であります(Wikipediaの記述に依れば、やはりこの人も「善い人に描かれすぎ」との批判があったらしい)が、演じているのはアンドレ・ヘンニッケという俳優で、ここに載ってる写真がモーンケ少将を演じているところ。この人の他の画像を探していたら、こんな作品に主演しているらしい。なんだか知らん、画像のインパクトにやられてしまった…すごく観たい。→→"Antikörper"公式サイト

*1:ゲッベルスを演じたとても奥目のこわーい顔の俳優…見覚えがあると思ったら、トム・ティクヴァ監督の『ウィンター・スリーパー』に出てた人だった。あれもちょっと不気味な男の役だったわね〜

*2:ヒトラーは言わずもがな、このゲッベルスシュペーアゲーリングも、私が見知った範囲での実物によく似た感じに見えた。これもメイク&演技の力なのか